12月 30

杉原千畝

「杉原千畝 スギハラチウネ」を観ました。

評価:★★☆

名前だけ知っているけど、その人の業績を知らない偉人というのは結構いるものですが、僕にとって、”杉原千畝”という人はその一人です。ひょっとしたら名前すら知らない人もいるかもしれないですが、彼が生まれ育ったのが現在の岐阜県の八百津町出身ということで、僕と同じ岐阜県出身でもあり、小学校の頃の確か社会科の時間に県内の偉人の一人として学んだ記憶がおぼろげながらにあります。でも、彼の功績といえば、第二次世界大戦下のヨーロッパにて、外交官としてユダヤ人たちに後に”命のビザ”と呼ばれるビザ発給を続けたということだけ。彼がどうしてそういうことに至ったのか、その次代の背景はどうだったのか、また、杉原千畝がどういう人物だったのか、、この映画は彼の半生を追うことでそれを知らしめてくれる作品になっています。

興味深いのはやっぱり冒頭の部分。日本の支配となった中国・支那地方(後の満州)にて、彼が外交官ではなく、スパイとして暗躍していたということ。なにも、「007」に登場するMI6のような秘密機関はなくとも、裏で動く外交活動であればスパイ活動と同じことを描いているだけなのですが、軍部と外務省との狭間で、後にいろいろときな臭い事件が起こる満州を冒頭に描くことで、何か物語の面白さを感じずには得られませんでした。、、といいつつ、これは杉原千畝という人物を描く伝記映画だったということを思い出し、この後にどのように話を振っていくかと思いましたが、スパイとして描いたのはほんの一瞬だけで、すぐに表向きの外交官の姿として日本に左遷さられることから映画は伝記モノの色合いを強くしています。しかし、杉原がその名を上げるようになったリトアニア以降のお話になっても、ところどころに彼らの周りに隠密活動をしていくキャラクターが登場してくるので、これは彼をスパイとして扱いたいのか、それでも偉人劇としての人間ドラマを中心に扱いたいのか、作品の焦点が少しぼやけてくるのです。もちろん、世界情勢が一刻一刻と変わっていく、1930年〜40年代の外交活動というのは裏で動く部分が多かったのは分かりますが、その分だけ、彼が行ったユダヤ人に対する行為とそれに対する想いというのがかなり薄いものになっていると感じざるを得ませんでした。

それに物語が少し整理されていないのも気になります。特に、冒頭から登場する意味深なイリーナという人物は、杉原の恋人のような存在を匂わしながらも、今はなきロシアの亡霊を追いながらレジスタンス活動をしているみたいなのですが、それにしてもお話の中で一瞬登場しているだけでどういう背景を持っているのか分かりづらいし、運転手になるペシュや秘書のグッジェにしろ、熱いキャラクターではあるんですが、それぞれがどういう行動をしていて、どういう想いを抱いているかは分かりにくい。また、それ以上に気になるのが、演出がイチイチ古臭いことでしょうか。良く言えば、熱い思いを分かりやすく伝えていて、ビザ発給を決断する場面や、グッジェが杉原に張り付いて最後まで支えるなどジーンと来る場面もあるのですが、ところどころ昭和映画の演出かと思うくらい臭いセリフを吐いてしまっていることもあり、見ていて少し赤面してしまうような場面もなくはなかったです。

ただ、杉原はどういう形で動いていて、リトアニアなどの東欧に住むユダヤ人たちがどういう立場に追い込まれていったかが分かりやすく描かれていました。今までユダヤ人迫害というと、ナチス・ドイツというイメージが一番に来るのですが、独ソ不可侵条約の下、あまり描かれることのないソ連でのユダヤ人迫害のほうも非常に酷いものだったことが理解できます。今はシリアからの難民がヨーロッパでは大きなニュースになっていますが、ちょうどそれと同じように第二次世界大戦下ではドイツを中心に迫害されたユダヤ人たちが難民となって行き場を失っていたということなんですね。それによって、杉原のした功績が如何に意義のあるものだったか、それがより鮮明になった鑑賞でした。

次回レビュー予定は、「恋人たち」です。

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