1月 15

スマホ、タブレットが変える 新IT医療革命 (アスキー新書)
スマホ、タブレットが変える 新IT医療革命 (アスキー新書)

最初は単なるスマホ、タブレットを用いた医療読本に過ぎないと思った。現時点でも、例えば、iPadを医療教育に使用している神戸大学の例や、問診票として活用する習志野病院の例など活用という意味では進んでいるところは進んでいる(実際、神戸大学の杉本先生や習志野病院の宮川先生も出てくるがw)。本著の前半も、医療3.0として、各病院の先生がセミナーで語っている内容が出てくるが、それはそれであくまで実例に過ぎない。これでは業界としてはどうかと思う。医療という全体でIT化を推し進めるには、もっと大胆なフレームワークを描く必要がある。その中で革命的なことを起こさないと、医療業界はいつまでも変わらない。

そう思った矢先に5章で収録されているセミナーで孫さんが吠えてくれた。これが実に的を得ている。

  • 日本はOECD加盟諸国では世界一の長寿大国
  • 医療先進国のアメリカの医療対比GDP比が1/2、受診回数は3倍→つまり、日本のお医者さんはコスト比でアメリカの6倍頑張っている
  • 人口1000人あたりの医師の数は加盟国中最低
  • 医者の時間外労働は平均月100時間以上(全産業残業時間平均13時間)

こういうデータをまじまじと見ると、日本の医療は業務改善が急務であることが分かるだろう。これはあくまでサービスを行う側の問題でもあるが、サービスを受ける側も他の国に比べて3倍の労力を払って、ようやく満足いく(いかないも含め)サービスレベルになっているという。これも大問題だ。こういう非効率的な部分を見せられると、IT化が必要ということがよく分かる。

孫さんの提言は僕がずっと思っていたことを言ってくれている。医療情報をそもそもクラウド化するような基盤を作らないといけないのだ。各病院で電子カルテを入れたり、タブレットを使ってみたり、地域という枠組みで中核病院とクリニックを結んでみたり、、、という細々としていてはダメなのだ(誰もしてくれないから、するしかないという現場の声も分かるのだけど)。国や医師会が動いてデジュールスタンダードを作る(国家革命を起こす)、もしくは患者が動いてデファクトスタンダードを起こす(一向一揆を起こす)のかは分からないが、このままでは延々と社会保障費だけ増え、日本の医療や介護の分野は内から腐っていくように思えてならない。対処療法も必要だが、根本治療を早く進めないといけないと思う。

(国の)税収が40兆円ないのに、医療費が35兆円掛かっていて、あと5年で医療費だけで40兆円を超えるという状況です。つまり医療費だけで日本のトータルの税収を上回って、これ以上国が持たないわけです。医師への負担も掛かりすぎている。その負担を減らして、なおかつ税金投入によって国民に負担をかけないように改善するためには、誰かが腹をくくればいいと。

医療の業界だけに任せず、誰かが何かをしなければという危機感を、日本国民全員が感じないといけないと思った良著でした。

11月 16

ITによる医療構造改革には政府のイニシアティブと成果検証が必要:岐阜大学紀ノ定教授――インターシステムズ・セミナー:日経メディカル オンライン

↑の記事を読んで、医療情報に関して一考。

現状、病院の情報システムで一番進んでいる印象があるのはオーダリングとレセプト請求の仕組み、そして電カルやパスシステムなどの医療情報共有の基盤が続いている感じがしています。

遠隔医療や地域医療などの視点で捉えると、病院内でいくらIT化が進んでいるといっても所詮は効率化しか目がなく、肝となる医療情報自体は日本の医療がこれからどのように進むか、介護や社会福祉、保険制度などの動向によって大きく変わってくると思っています。

英国の医療保険制度では、一次医療はGP(General Practitioner)、二次医療は専門医という明確な役割分担がある。患者は居住区のGPと契約し、GPの紹介がなければ保険で専門医にかかること ができない。こうした医療提供制度の中でNHS(National Health Service) Connecting for Healthという戦略の下、2010年までに英国全体でEHRの実現を目指した。電子処方せんサービスは2005年に50%、2006年に100%の普 及を目標にするとともに、2007年にはNational Network Service(略称Spine)により全英1万8000カ所以上の診療施設がネットワークで接続され、すべてのGPのネットワーク化を完了している。

記事中には英国の例が載っていますが、欧州などの医療を取り巻く社会福祉全般の制度化が進んでいる国にとって、医療のIT屋がすることはその政策に則った医療情報スキームを設計し、拡販していくことが主眼にあります。それは国がしっかりしたビジョンを打ち出し、最終的に例えばEHR(Electronic Health Record)を目指すという究極の目標に国と業界とが目線をあわせ、突き進めるということになると思います。

 現在では、Spine上で予約システムは2100万件の利用があり、GP to GP(患者が引っ越した際にGP同士のヘルスレコードを受け渡す仕組み)も100万人のデータが電子的にトランスファーされている。こうした結果に至った 背景として、2009年4月から始まった政府による相互接続性に関する戦略的なアプローチが奏功していると指摘する。

 入退院・転院のた めのメッセージの標準化、診療録をHL7のCDA(Clinical Document Architecture)ベースで交換可能にすると定義するなど、政府が相互接続用ツールキット(The NHS Interoperability Toolkit:ITK)の仕様を決め、ベンダーが提案するプラットフォームをITKとして採用できるか評価・認定している。

これが理想的なソリューションの形なのですよね。

 では、日本の医療構造、医療におけるIT戦略とその進捗はどうか。日本の保険制度・医療サービスは、国民全員が健康保険に加入し、一部負担金があれば、希望する病院や診療所を選んで、必要な医療サービスそのものを直接、受けられるフリーアクセス制。サービスを提供する医療機関は、収益ベースで見る限り、外来主体の診療所、入院では医療法人・公的機関、高度先進医療を特徴とする大学病院などの役割分担は果たされているように見える。

 フリーアクセスは、患者側から見れば利便性が高く、効率的な受診制度である。反面、中核病院に患者が集中する、医療サービスの高コスト体質を生み出している、などの側面もある。また、診療情報はその都度患者が選択した医療機関に残るため、散在状態にある。

日本は一次医療から高度医療までというレイアの分けた医療体制というビジョンは打ち出すものの、それに連携したスキーム(というか最終形)を示さないので、こういうフリーアクセスということが出てくるのだと思います。

また、悪いことに医療制度を支えるはずの保険制度が高齢化や社会構造の変化にさらされていて、病院にこない+重症化して救急医療に過度な負担をかけるという悪循環にも陥っています。情報化共有のグラウンドデザインなどガイドラインは2007年から出ていますが、つぎはぎだらけの医療や介護、社会福祉の制度に明確な方向性を早く打ち出して欲しいと思います。

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10月 08

チーム医療に関する審議会が行われています。

今行われているのは主に看護師の業務拡大について、特定看護師等、専門教育を受けた
看護師にどこまで業務を拡大する権限を与えるかを医師や看護師に各手技別に調査を
かけている段階です。

開業医は看護師の業務拡大に強く反対:日経メディカル オンライン

10月6日、厚生労働省の第4回「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ(WG)」が開催された。この日は、前回発表された看護師の業務実態調査の詳細な結果を公表(関連記事:2010.9.28「看護師の業務拡大は医師が強く支持」)。病院勤務医は看護師の業務拡大に前向きな一方で、開業医は慎重な姿勢であることが調査結果にはっきりと表れた。

これは何でかなーということを考えてみました。

理由1)プライマリケアで看護師業務が拡大すると、開業医の立場が危うくなる
  ⇒ どれだけできない医者かと思いますが、在宅機器の設定変更、
    医療ガスのメンテくらいで治療費を取る医者ならやりかねません。

理由2)仮に看護師が医療ミスをした場合、管理医師としての責任問題となる
  ⇒ 医療事故が万が一起こった場合の体制というのは、小さな病院になれば
    なるほど厳しいのかな(今までは医師の裁量の範疇で大きな手技は
    中核病院に任せられたのがより一層の医療分業が確立してしまう)と
    思います

特に理由2とかで、医薬分業が更に進んだときのリスクの抑え方とかは
問題になってくるのかなと考えたりします。

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10月 01

厚労省は盛んに医師不足を指摘してたりしますけど(こことか)、
逆に医師という供給が過剰になると、どうしても人材開発という視点から
一個一個の質の低下は懸念されます。それを各学校でどのように解決していくのか?
少子化でパイがたださえ少なくなるのに、どう戦略を練っていくかも鍵になります。

地域枠の合格ライン引き下げ…なんか違うんじゃないの?:日経メディカル オンライン

yomiDr.の記事によれば、地域の医師不足解消を目的に作られた医学部の地域枠が、2010年度に16大学で定員割れだったそうです。「長崎大では5人の地域枠に3人しか志願がなく、合格者はゼロ。宮崎大では10人の枠に24人が志願したが、センター試験の成績が合格ラインに達せず、合格者は2人だった」とか。

志願する人はいるけど、学力が足りないほうは解決策は考えられますが、
志願者自体が少ないのは問題ですね。大学側も、入学定員を増やしても、
学力を伸ばすための教育投資が必要になってきます・

どうしても医師というと、小さい頃から医者を目指して、その道で
コツコツと頑張らないといけないイメージがあります。

同様だった法曹界も法科大学院ができて(成功しているかは別にして)、
一般・Uターン組にも門戸が開かれるようになった昨今、
優秀な社会人からのUターン政策も考慮されていいような気がします。
#人の命を扱うので難しいのは分かるんですが、、

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9月 22

たまには仕事に関わることも書いてみます。

今、仕事の一環で「チーム医療」というのが一つのキーワードになっています。

単純に言葉尻を捉えると、医者だけでなく、看護師や臨床検査技師、薬剤師、理学療法士など、医療に関わる全ての人間がチームで行うことと捉えがちです。

でも、このチームは単なる病院内に留まらず、プライマリケアや二次医療、三次医療という階層に、地域という枠組みまで広げるという見識もあります。

果てまた、厚労省の審議会を見ると以下のような記述をしている人も、、

厚生労働省:2010年7月16日 第2回チーム医療推進会議 議事録

今日ここには出てきませんが、患者さんそのものもチームの一員であるという考え方があるわけで、したがって患者さんはもっと勉強してほしい。患者さんが勉強すると、私たちも勉強しなければいけないという比較的ポジティブなスパイラルにチーム医療そのものが論理的には乗ってくるのではないかなと思っています。

こうなると患者個人や家族もチーム医療の一員に加わらなくてはいけないようです。

その枠組みでどんな治療を行うのか、そのためにITとしてはどこを担えるのかを考えていかなくてはなりません。電子カルテで院内の情報化、地域連携をするような仕組み以上の情報基盤がいりそうです。

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