11月 16

ITによる医療構造改革には政府のイニシアティブと成果検証が必要:岐阜大学紀ノ定教授――インターシステムズ・セミナー:日経メディカル オンライン

↑の記事を読んで、医療情報に関して一考。

現状、病院の情報システムで一番進んでいる印象があるのはオーダリングとレセプト請求の仕組み、そして電カルやパスシステムなどの医療情報共有の基盤が続いている感じがしています。

遠隔医療や地域医療などの視点で捉えると、病院内でいくらIT化が進んでいるといっても所詮は効率化しか目がなく、肝となる医療情報自体は日本の医療がこれからどのように進むか、介護や社会福祉、保険制度などの動向によって大きく変わってくると思っています。

英国の医療保険制度では、一次医療はGP(General Practitioner)、二次医療は専門医という明確な役割分担がある。患者は居住区のGPと契約し、GPの紹介がなければ保険で専門医にかかること ができない。こうした医療提供制度の中でNHS(National Health Service) Connecting for Healthという戦略の下、2010年までに英国全体でEHRの実現を目指した。電子処方せんサービスは2005年に50%、2006年に100%の普 及を目標にするとともに、2007年にはNational Network Service(略称Spine)により全英1万8000カ所以上の診療施設がネットワークで接続され、すべてのGPのネットワーク化を完了している。

記事中には英国の例が載っていますが、欧州などの医療を取り巻く社会福祉全般の制度化が進んでいる国にとって、医療のIT屋がすることはその政策に則った医療情報スキームを設計し、拡販していくことが主眼にあります。それは国がしっかりしたビジョンを打ち出し、最終的に例えばEHR(Electronic Health Record)を目指すという究極の目標に国と業界とが目線をあわせ、突き進めるということになると思います。

 現在では、Spine上で予約システムは2100万件の利用があり、GP to GP(患者が引っ越した際にGP同士のヘルスレコードを受け渡す仕組み)も100万人のデータが電子的にトランスファーされている。こうした結果に至った 背景として、2009年4月から始まった政府による相互接続性に関する戦略的なアプローチが奏功していると指摘する。

 入退院・転院のた めのメッセージの標準化、診療録をHL7のCDA(Clinical Document Architecture)ベースで交換可能にすると定義するなど、政府が相互接続用ツールキット(The NHS Interoperability Toolkit:ITK)の仕様を決め、ベンダーが提案するプラットフォームをITKとして採用できるか評価・認定している。

これが理想的なソリューションの形なのですよね。

 では、日本の医療構造、医療におけるIT戦略とその進捗はどうか。日本の保険制度・医療サービスは、国民全員が健康保険に加入し、一部負担金があれば、希望する病院や診療所を選んで、必要な医療サービスそのものを直接、受けられるフリーアクセス制。サービスを提供する医療機関は、収益ベースで見る限り、外来主体の診療所、入院では医療法人・公的機関、高度先進医療を特徴とする大学病院などの役割分担は果たされているように見える。

 フリーアクセスは、患者側から見れば利便性が高く、効率的な受診制度である。反面、中核病院に患者が集中する、医療サービスの高コスト体質を生み出している、などの側面もある。また、診療情報はその都度患者が選択した医療機関に残るため、散在状態にある。

日本は一次医療から高度医療までというレイアの分けた医療体制というビジョンは打ち出すものの、それに連携したスキーム(というか最終形)を示さないので、こういうフリーアクセスということが出てくるのだと思います。

また、悪いことに医療制度を支えるはずの保険制度が高齢化や社会構造の変化にさらされていて、病院にこない+重症化して救急医療に過度な負担をかけるという悪循環にも陥っています。情報化共有のグラウンドデザインなどガイドラインは2007年から出ていますが、つぎはぎだらけの医療や介護、社会福祉の制度に明確な方向性を早く打ち出して欲しいと思います。

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