10月 29

ふしぎな岬の物語

「ふしぎな岬の物語」を観ました。

評価:★★★

「北のカナリアたち」以来となる吉永小百合主演作品。映画スターとして未だに君臨している人といえば、男優でいえば高倉健、女優でいえば吉永小百合というところだろう。最近はめっきり寡作な出演スターとなってしまった二人ではあるが、コンスタントに出演してくれるだけでも映画ファンにとっては嬉しい。本作は、森沢明夫の小説「虹の岬の喫茶店」を原作に、「孤高のメス」の成島出監督がメガホンをとっている。吉永小百合は主演だけではなく、作品全体の企画にも係わっている。

「北のカナリアたち」がかなり重厚で濃密なお話だっただけに、本作は全編通じてライトというか、軽妙というよりは言葉が悪いが、歯ごたえのない感じに仕上がっています。原作小説は読んでいないですが、多分、原作もこのようなエッセイのようなスタイルで進むお話なのでしょう。吉永小百合演じる喫茶店の店主、悦子の周りで起きる日常が淡々と描かれていきます。しかし、この映画をずっと見続けていると、つまらないというよりは、この日常から浮き上がる各登場人物たちのキャラクターに、次第にホンワカとさせられてくるのです。普通、映画の常套手段としては、各エピソードを貫く1つの幹になるようなお話を盛り込んでくるのですが、この映画はあえてそれをせず、その代わりに矢継ぎ早に過ぎていく日常を通じて、その合間合間で登場するキャラクターたちの変容を徐々に描いていくのです。ある人は病気になり、ある人は泥棒をし、ある人は帰ってきて、ある人は旅立っていく、、、変化していないような日常のエピソードでも、確実に私たちは心は移ろい、そして成長していくというところを静かに描いていくのです。

全体的に素敵な作品なのですが、最後の最後で悦子自身が放心状態になってしまうところがイマイチ理解できなかった。多くの人が過ぎ去っていく日常の中で、変わらないものを追い求めた上での絶望なのでしょうか? 確かに、人は絶望すると、何も手をつけれない、いなくなってしまいたい衝動には駆られると思うのですが、その引き金になるようなシーンが見当たらなかったので、この部分は少し共感することができなかったです。

お話としては映画を観たボリューム感には少し物足りないですが、吉永小百合が演じるというだけで、映画としてのパワーが少しつくのは観ていて、さすがだと感じてしまいました。

次回レビュー予定は、「レッド・ファミリー」です。

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