11月 20

福福荘の福ちゃん

「福福荘の福ちゃん」を観ました。

評価:★★★★☆

お笑いトリオ森三中の大島美幸が、坊主頭にして男性役を演じた話題作。彼女演じる男性は福田辰男32歳。塗装工として長年働き、ボロアパートに住む福ちゃんは職場でも、アパートでも、親切な兄貴分として一目置かれる存在になっている。でも、長年女性の影がないのは、学生のときに同級生から受けたいじめで、女性恐怖症になってしまったトラウマを抱えていたため。そんなとき、そのいじめに加わっていた一人の女性が、福ちゃんに助けを求めにアパートに訪れるのだった。

いつ、どの場所、どの場面でも、心優しいけど、奥手で、心の弱い人というのが必ずいる。家庭環境だったり、自分の見かけであったり、能力であったり、自分を卑下して前に進めない、そんな人たちにとっては、自分をいつも見てくれる親分肌・兄貴肌のような人物がとても助けになるものだ。この映画に登場する福ちゃんは、まさにそんな人物。それも自分が幼少期や学生時代に、自分自身が自信が持つことができなかったら、そんな人たちを自然と助けようとする意志が働いているのかもしれない。そんな福ちゃんの言動は、多くの男たちを惚れさせてしまうのだ。

この映画を観ていて、自分はどちらかというと助けられる側で育ってきたので、福ちゃんのような大らかで、頼りになる存在の偉大さというのはよく分かります。逆に、福ちゃんのように助ける側に回れるような技量というのは、どこから出てくるものなのかと考えてしまうほどです。それは時にはつっけんどんな態度をとりながらも、基本来るものを拒まない受け皿の広い心の持ちようなのかなと思います。それが若い頃に、自分を辱めた女性に対しても、オープンにしてしまうほどの開けっぴろげさ。彼のような存在というのは、稀有な時代に入っているのかなとも感じてしまいます。

福ちゃんのような父性と母性を兼ね備えたような、中立的な性の存在だからこそ、大島美幸が福ちゃんに適任なことも素直にストンと来ます。これが野暮ったい荒くれ男が演じると、同性愛っぽくなってしまうし、逆に女性役にしてしまうとアパートの住人たちも全員女役にしないといけないし、それこそ何か違う作品になってしまったように思います。男の中の信頼感だったり、友情の中にある愛情のようなものが、彼女が演じることで自然な雰囲気で描かれるのです。ゆるい演出感が心地よければ、笑える場面も多いですし、観て損はない作品だと思います。

次回レビュー予定は、「バツイチは恋のはじまり」です。

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