11月 27

6才のボクが、大人になるまで。

「6才のボクが、大人になるまで。」を観ました。

評価:★★★★★

全編が二人の会話劇という名作「ビフォア・サンライズ」を生み出したリチャード・リンクレイター監督が、また奇抜な形の作品を出しました。本作「6才のボクが、大人になるまで。」は、主人公メイソンが6才から大人になっていくまでを、文字通り、同じキャスト陣で描き切った作品。6才から18才になるまでの、12年間をずっと追い続けるというのは、キャストが病気や亡くなったりする危険もはらむし、若者はいいものの、ある程度年齢がいっている俳優にとっては、皺の数は増えることはさもありなん、老化によってどう変わっていくのかも分からずに出演し続けていくということにもなる。スタッフ陣もその通りで、監督だっていなくなる可能性(無論、そういう場合は企画自体がとん挫するだろうけどね)だってある。そんなリスクを承知で、ずっと撮り続け、完成形を見せたことにも感服するし、またその中身もすごくいい作品になっているのです。

人間の成長というのは、自分自身がどう変化していくのかということだけでなく、周りの人間の影響を受けたり、与えたりする中で育まれていくもの。だから、人の性格というようなものも、周りの状況が変わったり、人間関係が変わったりすることで変化していくのは当然。自分の今の状況ばかりに気を取られて、年をとった後のことを考えなかったり、逆にいつでも人に優しくしていくことで、幸せを掴んでいったりする。人はとかく、家族関係だったり、友人関係だったりを永遠に留めたいと思うものだけど、愛しい人でさえ、毎日の生活の中で徐々に変化していく。また、出産、入学、卒業、結婚、離婚、死別、、人生のいろんなイベントの中で、入れかわり立ちかわりで、自分が立つ舞台に上がっていく人も変わっていく。しかし、今、同じ舞台に立つ人たちにどう接していくかで、未来にどんな人に巡り合えるのかも変わっていく。それが人生というものなのだ。

この映画が凄いのは、1つ1つは何でもないシークエンスでも、12年の歳月によって積み重ねられた人の移り変わりというのが、それぞれの登場キャラクターに反映されていっていることだ。象徴的なのは、もちろん主人公メイソン少年の変化なのだけど、僕はイーサン・ホーク演じる父親の変化の仕方が実に心地よかった。若い頃は向こう見ずで離婚をしてしまったが、誰に対しても優しい懐の深さというのが、年輪を重ねることで、それが彼の魅力に変化し、彼自身に幸せが惹きついていくことになる。いい歳の取り方というのが、まさに彼の演じるキャラクターにピッタリはまるように思う。好対照なのは、パトリシア・アークエット演じる母親のほうだろう。キャリアウーマンとして成功を掴もうとし、場面場面では傍から見ると成功した人生を送っているように見えるのだが、終盤はああいう悲しいシーン(ネタバレなので控えます)になってしまう。人生というのが正解というものがないが、どうすれば幸せに巡り合えるのかというヒントを教えてくれるような一場面だった。

上映時間が少し長めですが、そのボリューム感以上の静かな感動を与えてくれる作品。上映館は少ないですが、お近くでかかるようなら是非観てみてください。

次回レビュー予定は、「天才スピヴェット」です。

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