9月 09

あん

「あん」を観ました。

評価:★★★☆

「萌の朱雀」や「殯の森」などの作品で、国際的にも高い評価(「殯の森」ではカンヌ国際映画祭グランプリ受賞)を得ている河瀬直美監督。いつも無名俳優か、一般人を使うことの多い彼女が、樹木希林や永瀬正敏など大物俳優を起用した本作を手がけたのは少し意外な感じがしました。また、本作はパフォーマーとしても活躍しているドリアン助川氏の同名小説をもとにした作品となっています。

河瀬監督は前述した「萌の朱雀」、「殯の森」の二本しか観ていませんが、本当に独特の作風をもっている監督さんだと思います。どういうものかというと、安直に人にオススメできないなという感じです(笑。河瀬監督自身の演出方法が、役者に対して、撮影期間中はその割り当てた役柄でいることを求めるということをどこかで聞いたことがあるくらい、役者が演じる、その役の日常を切り取っていくという形で作品を紡ぎだしていくのです。もちろん、自身が脚本をも担当しているので、お話の中でいろいろなきっかけやシーンは構成していくのでしょうが、カメラを回している中でも、1つの出来事を起因とした細かい周辺ドラマも即興的に撮っているような気がします。なので、作品はすごく散文的で観ているこちらはすごく集中力を高めて観ないといけない。カンヌの各賞を受賞するくらいに、映像作品としてはフレームワークも、その中のいろんな映像の要素もアーティストティックなのは分かるのですが、各キャラクターの動きに統一感がないので、なんのお話か観ていて理解することは困難なような気がしてならないのです。

しかし、この「あん」に関しては、そうした従来の河瀬監督作品(といっても二本しか観てませんが)の中では、すごく初心者向きというか、商業的にも成功させるために分かり易い形になっていると思います。観ていて、ちゃんと話の筋が理解できるし、樹木希林や永瀬正敏などの俳優陣も、そんな奇抜な動きをするわけでもない。落ち着いた形で淡々とお話が過ぎていくし、その中でも河瀬監督らしいカメラワークや光の使い方の絶妙さも感じることができる。そういう意味で、河瀬監督入門編としてはふさわしい形になっていると思うのです。

作品のテーマとしては、そうした淡々とした日常の中で、ごく当たり前のようにはびこっている差別や社会の非情さというところに焦点が当たっています。樹木希林演じる徳江はハンセン病を抱えながらも、社会と関わり合いながら、ごくつつましく生きていきたいという健気な想いを抱えた女性。徳江は美味しい”あん”を作り、人々はその美味しい”あん”を食することで、日常のつつましい幸せを感じることができるはずだった。しかし、そうした平和に見える日常でも、ごく一部の人たちの傲慢や偏見によって、そうした小さい幸せを願う人たちの想いというのは無情にもつぶされていく。スクリーンに映る日常が最後の最後までまぶしい中で輝いているだけに、逆に日常に見えないそうした人の暗部より如実に映る秀作だと思います。

次回レビュー予定は、「ナイトクローラー」です。

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