9月 18

Dear ダニー

「Dear ダニー 君へのうた」を観ました。

評価:★★★☆

ジョン・レノンが若手のミュージシャンを励ますために書いた手紙が、運命の巡り合せで43年の時を経て、本人に届いたという実話を基に、スターの絶頂期を過ぎたミュージシャンが、家族や自分を振り返り、改めて自分の人生を変えていくというお話。一部は実話という注釈が映画の冒頭にあり、エンドクレジットでレノンの手紙を受け取った本人が出てくるので、実話ではあるんでしょうが、家族のドラマ部分には一部脚色があるのかなと思います。往年のスター、ダニーを演じるのは、本当に久しぶりにスクリーンで観るアル・パチーノ。脇も、アネット・ベニング、クリストファー・プラマー、ジェニファー・ガーナーなどのアカデミー級のスターが固めます。監督は、本作が初メガホンとなるダン・フォーグルマン。

運命というのは容易に変えることができないもの。本作のダニーのように、一流で居続けるために、プロデューサーやら作曲家やらの言うとおりに、ただ黙々と仕事をこなしてきた人にとって、なかなか自分はどうありたいかという問いをするというのも難しいもの。そんなダニーがスターの階段を昇る直前に、ジョン・レノンは彼の未来を危惧して手紙を送る。しかし、運命という名のイタズラによって、手紙は本人に渡ることはなく、43年もの時が流れてしまった。ダニーは今でも有名な歌をバックに、スターのトップの座ではないまでも、ツアーをすれば、往年のファンたちによって何不自由ない暮らしを保証されている身。ところが、ジョンからの手紙を時を経て受取り、今までおろそかにしていた自分や家族の存在を考え始める。一大決心し、音信不通だった家族の元に、ダニーはかけつけるのだが。。

ダニーを演じるアル・パチーノの演技をまじまじと見るのは、「オーシャンズ13」以来。アダム・サンドラ―の「ジャックとジル」にもカメオ出演していたみたいですが、その記憶はあんまりないくらいです。「オーシャンズ~」からは8年くらい経っていますが、見かけは少し老けたものの、アル・パチーノここにありという演技力のすごさを見せてくれます。特に、アネット・ベニング演じるメアリーとのホテルのやり取りは見事の一言。台詞はちゃんとあるのでしょうが、アドリブをも織り交ぜて、軽妙な演技を魅せつけてくれます。冒頭のコンサートシーンも含め、歌の声量感も抜群。彼が好きな人はもとより、演技を勉強している人も、是非参考にしてもらたいなと思える作品です。

映画のほうは、自分を変えたいと思っているダニーが、スターであるという一線をなかなか越えられないもどかしさの中で、それでも着実に幸せを掴もうとしているのが微笑ましい。中盤に、物語のキーとなる家族へ向けた歌を自作し、プライベートコンサートにて披露するシーンがあるのですが、これが本当にもどかしい。映画ということを考えると、一気にハッピーエンディングにして欲しいという観る側の論理で観てしまうのですが、その中でも自らのアイデンティティを変えるのは難しいという、人生の教訓めいたものを感じさせてくれます。

それでも、ラストに小さな幸せを感じられるのは素敵。傷つきながらも、一歩一歩進んでいく。その中にご褒美のように、幸せというのは隠れているものなのかもしれません。

次回レビュー予定は、「靴職人と魔法のミシン」です。

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