12月 16

もらとりあむタマ子

「もらとりあむタマ子」を観ました。

評価:★★★★

モラトリアムというのは心理学の言葉で、「青年期における、社会において一定の役割を引き受けるための猶予期間」という定義があります。70年代のヒッピーのような自由人が僕の中のモラトリアムど真ん中な印象なんだけど、今の時代だとニートが(まぁよくいえば)モラトリアムなのかなともいえなくもないです。大学を卒業し、就職もせずに、しかも実家で特に親を手伝うわけでもなく、ゴロゴロとしている一人の女性のモラトリアムな日常を映画にしたのが本作なのです。

よく思うのですが、学生のときは学校に行っているからという理由で、社会に貢献して何かをするというところが希薄になります。無論、(所得が一定額以下の場合は)税金も納めなくていいとか、年金も猶予されるとか、どこか社会とは隔離されている空間で意識することができないということもあるでしょう。本当なら就職して社会人となった瞬間に、”社会における一定の役割”を引き受けることになることになるのだけど、社会人になってもその役割というのが明確にならない人も多い。社会人になるならないの生活の状況だけでなく、心の中でもモラトリアムを抜けきれない人って、実は多いのではないかと見ていて思いました。

というのは、映画にあんま関係なので、映画にまつわる話をしましょう。本作の山下敦弘監督は、前作の「苦役列車」で本作の主演・前田敦子をヒロインにしてましたけど、本作はそれとは真逆なダサいモラトリアム&ニート女性を演じさせています。これが結構ハマっているのもいいんですけど、周りの俳優と生み出す空気感が実にいい。特に、父親役の康すおんや、振り回される学生役の伊東清矢との不器用なやり取りが、実にその辺りにありそうなリアル感を出しています。こうした何気ない生活の中にも、今のままでいいのか、一歩歩み出すべきなのか、という重要な決断の瞬間がいっぱい詰まっていることが分かる素敵な作品です。

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