1月 09
著者 : 真山仁
講談社
発売日 : 2013-10-30

映画ストックが久しぶりに尽きたので、こちらも溜まっている本のレビューを久々にしたいと思います。

真山仁の昨年(2013年)に出版された最新作「グリード」を読みました。

真山仁といえば、映画やTVドラマにもなったハゲタカシリーズが有名。天才投資家・鷲津政彦が企業のバイアウト<買収>を仕掛ける経済ミステリー。経済もので、なぜミステリーと銘打つかは一連のシリーズを読んでもらえれば(もしくはTVドラマと映画化されている「ハゲタカ」シリーズを観てもらえれば)分かりますが、単純に買い叩くだけではなく、企業も血の通った人間が事業を起こしてやるもの。売上や利益というのはもちろんなんですが、企業が作りだす文化や産業構造、従業員の夢・生活も含めて、買った買われたでは括れない人間ドラマが詰っている。「ハゲタカ」シリーズはそうした経済と人とをうまくつないだ作品として、とても面白いと感じています。

今回、鷲津が現れたのはリーマンショック直前の2007年アメリカ。サブプライムローン債から生み出された複雑な金融商品は投資会社に大きな利益をもたらしていたが、足元ではローン返済に苦しみ、破産を余儀なくされている多くのアメリカ人たちがいた。強欲(グリード)に魅せられた金融トップ界とは裏腹に、足元の現実が徐々に金融商品の崩壊と企業破産の連鎖という暗雲こめた未来が待っているのだった。鷲津はそんなアメリカ崩壊となる中で、どんな一手を繰り出そうとしているのか。。

シリーズの最初は1990年後半のバブル崩壊によって苦しんだ日本企業の再生というところから始まりました。不況にあえぐ社会情勢とは別に、今は名前を聞くと懐かしく感じる”村上ファンド”などのような新進気鋭の投資ファンドが、いわゆる”モノ言う株主”として多くの企業を買収<バイアウト>していく中で、それを模した本シリーズが出てきたように思います。翻って、今はアベノミクスによる好景気で、不況という言葉はどこ知らずという感覚に我々は陥っています。でも、原発問題や未だに低い雇用・就職率など足元を見ると、やはり経済情勢はいつ危機に陥るか(バブル崩壊なんか一気でしたからね)分かりません。経済が崩壊し、企業が危機に陥ると、一番困るのがそこにいる人たちの生活。基本はエンターテイメント小説ながらも、資本主義社会で、経済の下に生きることを余儀なくしている私たちにとって、こういう現実はいつ起こっても不思議でないと感じずにはいられません。

それでもミステリーながら、そこに生きる人間性というところに追求する姿勢はいい作品だなと思わされます。最後の最後で鷲津の狙いが分かり、それが冒頭に戻ってくるという構成もいいな。鷲津さん、やっぱりカッコよすぎます。

著者 : 真山仁
講談社
発売日 : 2013-10-30
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