4月 11

フルートベール駅で

「フルートベール駅で」を観ました。

評価:★★★☆

2009年の元旦、サンフランシスコの鉄道駅で一人の黒人青年が、白人警官によって射殺される事件が発生した。新年を境に、列車内で起こったいざこざを収めようとした警官たちの内の一人による銃の暴発ということで処理されましたが、当然のことながら、大きな話題を呼ぶ事件となり、本作の出来事が映画化されるまでになるので、反響の大きさは計り知れないレベルになっています。日本で事件を知った身としては、単純に無抵抗な黒人への暴力という人種差別的な一面しか見えてこなかったけど、こうした映画になることで、それは事件を一部断片的に見ているだけに過ぎず、全体的に観ると青年の人生を打ち砕いた悲劇であることがよく分かる。それほど、丹念・丁寧に作られていて見ごたえ十分な作品になっています。

映画は事件当日の朝からスタートします。青年の一日を丹念にドラマとして組み上げていますし、要所要所で青年がどういう立場に置かれているのかを、フラッシュバックする形式で描いていきます。そこで分かるのは、アメリカの低所得者層の厳しい現実。収監されていた過去から、家族のため、そして自分のために、過去の負債(お金という意味ではなく)を清算しながら、真面目に生きようとし始めている青年の何気ない一日が刻々と描かれています。ラストは上記のとおり、もう分かってしまっているので物語としての驚きはないですが、分かっているからこそ、その悲劇に遭遇してしまうには惜しい人物であることが、これでもかというほど綿密に描かれていきます。

この映画が好印象なのは、確かに悲しい事件ではあるのですが、事件が起きてしまったことを特定の人物(この場合は引き金を引いた白人警官)のせいと糾弾していないことです。誰が悪いとかではなく、こうした事件が起きてしまうような背景(社会)をなくしてしまおう、、という前向きな姿勢が、いい雰囲気の作品になっているポイントだと思います。

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