5月 09

神宮希林

「神宮希林 わたしの神様」を観ました。

評価:★★★☆

御年70歳を迎える(2013年)ベテラン女優・樹木希林が、2013年に20年に一度の式年遷宮を迎えた伊勢神宮参りを通じて、彼女の人生観・宗教観に迫っていくドキュメンタリー映画。こう書くと、一人の女優に迫ったパーソナルな作品かとも思われるかもしれないけど、この映画の彼女はあくまで象徴に過ぎず、彼女を通じて、日本人の宗教観というものに迫っている。式年遷宮を通じて行われる伊勢地域の様々な祭り。神宮の木を切り倒す、現代の木曽の木こりたち。そして、切り出した神木を分ける形で、津波で流された東北の社を復興させる情景などが、作品の各エピソードとして紡がれていく。

個人的に、ここ最近思うこととして、このグローバル化した現代社会において、”人のこころ”に現れている漠然とした不安というのが目に見えない形で肥大化しているのではないかと思うのです。右肩上がりで成長した社会ではなく、現代はモノも溢れ、個人の細かな欲求を満たしてくれるサービスも拡充されている成熟化した社会に突入しています。この社会において、皆が同じという旧来型の価値観というのが通用しなくなってくる。国も、人種も、嗜好も、価値観も多様化した社会で生きるというのは、(極端に言えば)明治維新後の近代にはなかった、新たな哲学というのが必要になるんじゃないかと思うのです。

本作では、日本の古来からある神道というもの、その代表格でもある伊勢神宮の式年遷宮という一つのイベントを通じて、日本人が日本人たる帰属感というのが宗教というところにも1つあるということを描いています。そもそも日本の神道はギリシャ神話にも負けないくらい人間臭く、様々な神々がいながら、そのそれぞれを高貴なものとして祀っている。西欧的な価値観が産業革命、経済成長を促してくれたのならば、こうした多様な神々がいる宗教観こそ、次の成熟した社会を生きるヒントを与えてくれているように思います。おまけに、日本人はそれに加えて、仏教の教えも生活の様々な基盤として取り入れている。そして、その様々な神や仏を今でも”祭り”という形で人を集わせるコトとして提供している(式年遷宮が大きく取り上げられることなど、その最たるもの)。自動車や電化製品ではなく、次の社会で日本が輸出できるのは、こうした哲学めいた宗教的価値観なのかもしれません。

次回レビュー予定は、「アメイジング・スパイダーマン2」です。

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