7月 30

思い出のマーニー

「思い出のマーニー」を観ました。

評価:★★★★

ジョーン・G・ロビンソンの児童文学を、「借り暮らしのアリエッティ」の米林宏昌監督が手掛けたアニメ作品。宮崎駿・高畑勲の二大巨頭監督以外のジブリ作品の中では、よく出来た部類の作品になっています(個人的に一番好きなのは、宮崎吾郎監督の「コクリコ坂から」なんですが)。米林監督作としては、前作「借り暮らしのアリエッティ」には脚本・宮崎駿の名前がありましたけど、本作は完璧に独り立ちした(少なくともクレジット上は)作品にもなっています。

本作の予告編を観たときの印象は、日本なのか、はてまたどこの外国をモチーフにしているのか、よく分からない舞台設定でしたが、一応舞台は北海道のとある田舎町となっています。にしても、背景の描き方は(祭りなどのシーンはあるものの)、とても北海道というか、日本とは思えない。それは主人公の杏奈(アンナ)という名前にしてもそうだし、彼女が興味をもつ洋館の少女・マーニーにしても、杏奈が居候するおばさん夫婦の家にしても、どこか明確な世界ではなく、フワフワとした異国のような描かれ方をしています。本来なら、こうしたよく分からない世界観は物語の設定空間を曖昧にしてしまうというダメな方向に働くんだけど、本作は逆にそうした設定を意図的に使っているように思えてなりません。この設定があるから、マーニーという夢の国の少女なのか、ゴーストなのか、よく分からないキャラクターが逆に立脚したキャラクターに映ってくる。そして、杏奈はマーニーの影を追うことで、マーニーが持つ悲しさみたいなところに、自分自身の影を感じていくことになるのです。

不思議な物語の中のような存在だったマーニーが、後半部のある語りによって、急に現実的なものになるところが非常に秀逸。この展開があるから、ラストシーンでの杏奈の成長ぶりが手にとるように実感できるのです。これは原作の持つ物語力に依るところも大きいのでしょうが、現実とファンタジー、現在と過去をうまく映像で紡いでいるからこそ感じられる感動みたいなところも多分にあるのではないかと思います。

まぁ、でも、よくよく考えたら結構怖い話なんですよね(このあたりはネタバレになるので触れませんが)。これを実写でやると、確実にホラー映画になると思います(笑)。アニメだからこそ成立する美しいお話を、是非映画館で多くの人に見てもらいたい良作です。

次回レビュー予定は、「青天の霹靂」です。

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