10月 23

蜩ノ記

「蜩ノ記」を観ました。

評価:★★

黒沢明監督の助監督として長年勤められ、「雨あがる」などの作品でも知られる小泉堯史監督による時代劇。小泉監督の同じ時代劇では「雨あがる」が題名通り、清々しい物語だったけど、本作も物語の艶やかさという意味では負けていない。藩主の側室との不義密通で10年後の切腹を命じられた男・秋谷と、彼を監視しながら彼の生き方に共感していく男・庄三郎。二人の武士の生き方を描いた物語になっています。すぐ切腹とならなかったのは藩主の家譜を編纂していたため。お家の系譜を追いながら、切腹を命じられるきっかけとなった事件の背景、男の周囲で日々起こっていくいざこざも絡めて描いていく構成になっています。

物語としては、確かにいい作品ではあります。事件とお家の系譜をたどる物語が1つに重なっていくところはミステリーっぽくもあり、かつ日々の秋谷を死の恐怖を感じさせない凛とした生き方も、武士らしさを感じるところでもあるのです。ただ、お話の調子は一辺倒というか、物語の起伏・緩急といったものが全然ないので、観ていて、すごく眠気を感じる作品となりました。「雨あがる」では主人公・伊兵衛のキャラクターと、彼の周りに集まる人物のキャラクターが面白かったのですが、本作の登場人物はどれも穢れがなく、まっすぐな一本調。これでは観ていて眠たくなるのも然りです。

本作は葉室麟の同名小説を原作にしているようですが、藤沢周平原作の映画化作品(「たそがれ清兵衛」など)のような、1つの出来事をもう少しクローズアップしたお話の展開にしたほうがよかったように思います。切腹とお家騒動だけでも、その中で秋谷がどのように生きてきたのか、、そこにもう少し立ち入った描き方をしてくれれば、映画としても、もう少し深みができたのではないかと思います。

次回レビュー予定は、「柘榴坂の仇討」です。

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