12月 03

紙の月

「紙の月」を観ました。

評価:★★★★

平凡な主婦が、とあるきっかけで巨額の横領事件に手を染めていくというサスペンスドラマ。主演は2007年の「オリヲン座からの招待状」以来、映画では久々の主演作となる宮沢りえ。一時期は映画も、ドラマも遠のいていた時期はあったけど、久々にスクリーンに姿を現した彼女というのは、スケールが二倍も三倍も大きくなったように思います。共演は「ぼくたちの家族」の池松壮亮や、「かもめ食堂」の小林聡美など、それぞれが映画のキャラクターとして、一筋縄ではいかない役どころを十二分に演じています。

サスペンスと書きましたが、本作ほど、その言葉がピッタリとくる作品はないかと思います。誰しも、法を犯さないまでも、人や社会に対して、ちょっと悪いことをしてしまい、それが親や上司などの存在から逃れられたときのスリリングな体験というのは大なり小なりあるのではないかと思います(もちろん、犯罪を犯してはいけませんけど)。とかくそういうときって、勉強や仕事、家庭などの人間関係等々でトラブルが起こり、ちょっと注意力というか、気の緩みが散漫になったときに、悪の影が忍び寄るのです。だから罪というのは誰しも犯す危険がある。その瀬戸際で如何に踏ん張れるかで、その人の人間力というのが問われるわけですが、そんなフラフラした状態で、自分というのはなかなか保ち続けることが困難なもの。ちょっとした誘惑で、転がりだしたら最期。永遠と続く谷底まで、一心不乱に向かっていくしかないのです。

この映画の怖いのは、そうした誰にでも起こる可能性と淡々と描いていくことでしょう。特に、キーポイントになるのが夫との不和、客先で出会った青年との情事、仕事のちょっとした行き違い、、、誰しも人間関係を持つ中で起きそうな事柄から、恐ろしいことに発展していくことはどこにでもあることを描き出しています。そこで対照的になるのが二人のキャラクター。一人は池松壮亮演じる平林光太。彼の何ともいえないキュートな魅力にハマる主人公・梨花。そして、もう一人は守護天使的な存在ともなる小林聡美演じる行員・隅より子。彼女の几帳面とも思える正義感が、いろんなキャラクターの中で、最後まで凛としているのも見事でした。単純に、善と悪とは分けられませんが、こういう好対照キャラが作品中にギンギンと異彩を放っていて、作品が最後まで緊張感溢れるものになっていたと思います。

監督は「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八。前作のような力強さというより、本作は作品全体にキレがあるように感じます。でも、物語自体は予告編と思っている以上に変化はないので、映像演出はどこか過剰かと思われても仕方ないかなとも思います。事実、同じ回で観てた、近くのオジサンはつまらなそうに観てましたし。。秀作と、駄作の際を突っ走っているのも、物語同様なので、僕は案外楽しめましたが(笑

次回レビュー予定は、「トワイライトささらさや」です。

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