12月 10

シャトーブリアンからの手紙

「シャトーブリアンからの手紙」を観ました。

評価:★★★★

第二次世界大戦下、ドイツ占領下にあったフランスで起きた虐殺事件を描いた作品。きっかけになるのが一人のドイツ将校の暗殺なのだけど、その見返りにヒトラーが求めたのは150人のフランス人捕虜(主に政治・思想犯)の虐殺だった。その中には反独の運動だけでなく、共産主義に啓蒙された若き学生たちも含まれていた。よく第二次大戦下の捕虜虐殺になるとユダヤ人たちの話になりがちなのだけど、そこにこういう私たちの知らない形での虐殺劇が行われていたということが興味深い作品でした。

事件が起こったのが1941年ということを考えても、ドイツによるフランス占領が始まって間もない頃。当時のドイツは各地への進撃を繰り広げながらも、占領地での統治に苦労していたことが本作を観ていても分かります。戦争末期と違い、当時は各地に設立したドイツシンパの傀儡政権を通じ、各地の住民と如何に融和的に統治を図っていくかを考えていた。作品中でも、捕虜収容所の警備はドイツ人ではなく、フランス兵が行っていたり、地方自治に関しても主導していたのはフランス人たちだったことが描かれています。これには占領していたとはいえ、進撃に手いっぱいなドイツにとっては、占領民たちに反乱を起こさせないように、融和的に進めたい狙いがあってのこと。それが戦況が苦しくなり、ヒトラーの非人道的な政治的判断が徐々に統治を難しくしていくことになるのです。だから、意思に背くものの見せしめとしての虐殺が始まっていくのですけどね。

本作の特徴的なのは、こうした虐殺のお話でありながら、作品全体が悲劇っぽい演出をとことん避けているようにしていること。特に、悲劇って、情が溢れるような別れのシーンを連発し、甘いノスタルジックな音楽で過剰演出しようとなりがちなんですが、この作品は淡々と描くことに終始しています。だからこそ、当時の占領時の社会が如何に不釣り合いなものだったかということが如実になるし、より各個人(特に、ドイツ軍の指示で動くフランス人たち)の苦悩が鮮明になってくるのです。ラストの結論が(歴史的にも)分かってしまっているので、そこに向けて作品として訴えたい部分が、凛と立っているように感じます。今までの戦争映画にないようなリアルな空気感だからこそ、ラストシーンの空しさのようなものが沸々と心の底から湧き上がっている良作です。

次回レビュー予定は、「西遊記 はじまりのはじまり」です。

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