12月 23

メビウス

「メビウス」を観ました。

評価:★★★☆

「嘆きのピエタ」のキム・ギドグ監督作品。僕は、この人の映像作品というのが好きなのですが、最近はプロデュースに回ることが多く、ギドグ作というのはスクリーンでなかなかお目にかかっていないような気がします(前観たのは、「アリラン」かな)。寡作になってきたというのも、なかなかお目にかからない理由かもしれませんが、本作を観ると、以前よりもましてキワモノ志向が強くなってきており、小規模な劇場への移行が進んでいるのも、その理由じゃないかと思ってしまいました。ギドグ作品はぶっ飛びが確かに多いけど、本作のやり方は少し異様かもしれません。

本作のテーマは、ズバリ男女から見る男根思想でしょう。恋愛って、言葉で書くといい響きですが、結局はSEXしたいんでしょうと突き詰めると、そんな話にもなってしまいます。SEXの象徴が性器なのであれば、男性のそそり立つ男根というのは、まさにSEXのイメージシンボルに他ならない。逆にいえば、古来から男性が社会を引っ張っている現実を考えると、男根は社会にとっても(男にとって)、人が人であることの象徴かもしれない。普段は突き出しているだけで、あまり意識することのないシンボルを、この映画は恥ずかしみもなく、シンボルの意味合いを追い求めているのです。

映画に登場するのは、ある夫婦とその息子。夫は浮気を繰り返し、妻はそんな夫に異常なまでの恨み・妬みを抱いている。妻は、浮気を繰り返す夫の男根を切断しようとするが未遂に終わり、代わりに息子の男根を切り離してしまう。そうした息子への行為は、夫への行為の代償かもしれないませんが、夫のようになって欲しくないという息子への愛情かもしれない。男根を失った息子は、世の男社会からは孤立し、そんな息子をけなげに思う夫は浮気をやめ、そして息子のためにある行為に走る。1つの男根が失われたことへの喪失が、人の心を狂わせ、その家族の未来をも暗い影を落としていくのだった。。

とまあ、真面目に書きますが、傍から見ると、面白いほどの男根信仰に染め上げられた映画なので、かなり見る人を選ぶかなと思います。性器の描写はそれほど過激でも、直接的でもないですけど、だからこそ想像力をかき立てられてしまうというのは、作り手の意図している部分でしょう。全編、音声なし(音楽もなし)、台詞なしという作品の作り方も、より映画のテーマを深く考えざるを得なくしているような工夫だと思います。ギドグが描くからこそ成立するキワモノ世界。怖いもの見たさで観てみても損はないかもしれません。

次回レビュー予定は、「ホビット 決戦のゆくえ」です。

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