2月 13

さよなら歌舞伎町

「さよなら歌舞伎町」を観ました。

評価:★★★★

大都会・東京にあって、その街の”いかがわしさ”がなぜか全国に知られる歌舞伎町。東京に住んでいたときは新宿によく行っていたけど、よく行くのは新宿二丁目から三丁目、新宿西口とかで、歌舞伎町は多分1、2回くらいしか行ったことがない。でも、これはあくまで住んでいた頃の話で、新宿ミラノ座(もう閉館したのかな?)とか、歌舞伎町の映画館には住む前にも何回か行っていました。映画館界隈も少し独特で、汚いといえばそれまでだけど、妙に味があって、憎めない”いかがわしさ”と同居した独特の空気感は、逆に虜になってしまうほど、人を引き付ける何かがあります。西武新宿駅周辺の再開発も進むようなので、あの雰囲気がなくなってしまうのは残念だけど、歌舞伎町のもつ、この”いかがわしい”空気感は、これからも他の場所で引き続き継承してほしいと思うところです。

さて、この映画は、その歌舞伎町のトリビュートみたいな位置づけの作品になっています。主人公・徹は一流ホテルで働いていたが、リストラされ、今は歌舞伎町のしがないラブホテルの雇われ店長として働いている。いつかは一流ホテルに戻ることを夢見、周りにはまだ一流ホテルマンであることを吹聴している徹をはじめ、このラブホテルの従業員やそこに集ってくる人たちは、どこか暗い内面を抱えながらも日々過ごしている。しかし、そこには漫然に日々を過ごすだけではなく、少しでも明るい未来を夢見て、着実に歩む人の姿が映し出されていくのです。

冒頭で、”いかがわしい”歌舞伎町と書きましたが、歌舞伎町の魅力は、この”いかがわしさ”が逆に人の弱さというのを街全体が許容してくれることだと思います。人の心は本当に弱いもの。傷ついて疲れ切った心も、ほんの些細な幸せを夢見ることも、人のありのままを、街の”いかがわしさ”で隠してくれるのが歌舞伎町というところだと僕は思います。この映画に出てくる人たちは、徹をはじめ、日常に何か不満や不安を抱えながらも、くじけずに何とかまっすぐ生きている。いろんなことがありながら、人生フラフラとしながらも、着実に小さな一歩を出てくる登場人物たちがそれぞれ歩んでいることが、単純に群像劇として終わらず、観終わった後も、どこか爽やかな味わいを残してくれる作品に仕上がっているのです。

僕は韓国人カップルたちのエピソードがいいなーと思いました。デリヘル嬢でありながら、客の心にそっと寄り添うイ・ヘナと、彼女にツンケンされながらも慕って寄り添うアン・チョンス。群像劇なので、他のエピソードに飲み込まれそうだけど、彼女たちのエピソードだけは際立って、すごくよかったです。監督は「ヴァイブレータ」の廣木隆一監督。心のひだを感じさせるドラマは、廣木監督の味が十二分に出ていると思います。

次回レビュー予定は、「幸せのありか」です。

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