2月 26

フォックスキャッチャー

「フォックス・キャッチャー」を観ました。

評価:★★★☆

1996年に実際に起きたデュポン財閥御曹司による、レスリング五輪金メダリスト射殺事件を描いた作品。僕は最初にこの作品を知ったときに、財閥の御曹司とレスリング金メダリストがどうつながってくるのか分からなかったのですが、作品を見てみて、ようやく話の展開が理解できたという感じです。予告編を見ても、イマイチどういうお話か分かりにくい。これは本作を口コミで人に伝えにくいということにもつながっていると思うので、広告宣伝もえらく難しい作品だな、、と余計な心配をしてしまいました。

本作は、いわゆる裸の王様をテーマにした作品なんだと僕は思います。オリンピック金メダリストであったとしても、アメリカではイマイチ注目されていないスポーツのレスリング。オリンピックの舞台よりも、毎日の生活をも苦慮していた主人公マークは、レスリング好きのデュポン家御曹司ジョン・デュポンからのスポンサードの話に、一も二もなく飛びつきます。豪邸に用意された宿舎と、様々な用具がそろう練習場も完備し、対外試合の遠征費も惜しむことなく、お金を拠出するデュポン家。マークだけではなく、全米レスリングのメンバーも集結し、スポンサーに苦慮していた協会もデュポン家のスポンサードを受けるようになる。しかし、そのお金との見返りに、ジョンは練習方法や競技内容まで徐々に干渉し始める。プロのレスラーではない、ジョンのアドバイスはマークたちにとっては点で的外れなことばかり。でも、スポンサーである以上は無視することもできない。そこにマークの実兄・デイヴが選手兼マネージャーとして加わると、事態は収拾のつかない方向へと転がり始める。。

人は仕事でもなんでも、自分にとって得意なこととか、専門にしていることが少なからずあると思います。その領域に無責任にアドバイスをしてくる人は疎んじたくなる存在でしかないのですが、赤の他人ならともかく、それが本作のような出資者であったり、上司であったり、肉親であったりすると、軽々しくもできないもの。その狭間でストレスを抱える人なんて、世間にはごまんといるだろうなと思います。自分の言っていることが仮に100%正しいとしても、そのことを主張することが100%正しいとも限らない(正論は、物事を進めるには邪魔なものでしかない)ということを、この作品は象徴しているように思います。この映画のジョンのような人、近くには置きたくないですよね。。

映画の盛り上がりは終盤の射殺される悲劇的な場面でしょうが、そこに至るまでの課程は結構淡々と描かれます。このスタイルというか、味わいは「ファーゴ」や「ノーカントリー」のコーエン兄弟監督作品を思い出します(あそこまで残虐でも、ブラックでもないでけど、、)。マーク役のチャニング・テイタムもいいですが、デイヴ役のマーク・ラファロ、ジョン・デュポン役のスティーブ・カレルの変身ぶりは、作品のもつ狂気さ以上の、すごい存在感を示してくれています(両人とも、本作でアカデミー賞助演男優賞、主演男優賞の候補に)。素直にオススメはできないですが、丹念に作りこまれた良作になっています。

次回レビュー予定は、「はじまりのうた」です。

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