2月 27

はじまりのうた

「はじまりのうた」を観ました。

評価:★★★

「ONCE ダブリンの街角に」を手掛けたジョン・カーニー監督による、ある女性ミュージシャンが輝くまでを描いた作品。「ONCE」も観たのが随分前(2006年公開ですものね)なので、内容もおぼろげですが、ある男女のお互いを想うもどかしさを歌に載せた作品だった記憶があります。本作も、ミュージカルではないですが、ミュージシャンが主人公なだけに、音楽で物語が進んでいくところが多分にあります。しかし、その音楽自体が「ONCE」や、例えば最近の作品だと昨年の「ジャージー・ボーイズ」のような物語と密接に絡み、物語自体をドライブしていくような力強さがないのが少々残念なところ。あくまで音楽は物語を色づける背景でしかなく、まるでミュージックビデオのようにセンスは抜群だけど、中身が伴わないような位置づけに音楽があるのです。

逆説的ですが、それでも本作の魅力になっているのは音楽なのです。物語を進める要素にはなっていないものの、登場人物たちのほとんどが音楽に何かしら関わりを持つ人々で、彼ら彼女らがその音楽をもとに集結し、そこにドラマが生まれていくのです。登場人物たちも個性的なメンバーばかり、作品の中盤で、ストリートの喧騒を利用して、音楽を作っていく場面がありますが、そこに一瞬だけ登場する子どもたちでさえ、演奏者として、その音楽に参加していく。普段、私たちの生活には多くの音があり、古来より、その音の中で旋律を作り、リズムをつくり、歌を載せ、私たちは音楽を作り、それを楽しんできました。音楽の素養のないとか、音楽とは関わりのないと思っている人でも、根底には音を楽しめる要素ってきっと誰でもあるんじゃないかなと思います(楽しみ方はそれぞれとして)。その音楽に人は惹かれ、人が集い、ドラマができていく。こうした音楽映画のいいところは、そうした音に対する人の根源的な渇望にあると思うのです。

主演のキーラ・ナイトレイはずっと注目している女優さんですが、この映画ほど自然体な演技は観たことありません。本人もリラックスして、楽しんで作品に参加している様子が観ていてわかり、実に楽しい作品になっています。それに歌も上手い。ちょうど、「フォックスキャッチャー」と続けざまに観たこともあって、両作にも出演しているマーク・ラファロ(本作では、音楽プロデューサー役)のカメレオン役者ぶりには舌を巻きます。鑑賞日がバレンタインということもあり、カップルのお客さんも多かったですが、ラブ要素はあまりないので、デートムービーには向かなさそうです。

次回レビュー予定は、「娚の一生」です。

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