3月 17

くちびるに歌を

「くちびるに歌を」を観ました。

評価:★★★☆

久々に純王道の青春劇を観たような気がします。東京から臨時教師として、長崎県五島列島にある中学に着任した音楽教師。彼女はトップクラスをいくピアニストだったが、あることをきっかけにピアノを弾けなくなっていた。それでも幼馴染の親友に頼まれた音楽教師という立場と、なぜかなってしまった合唱部の顧問という仕事を卒なくこなそうとする。それでも様々な生徒との葛藤を通じて、音楽の魅力に再び心を開いていく、、、という展開はベタともいえる話の流れだけど、序盤は主役の音楽教師を演じる新垣結衣のクールな演技が、はた目から見ると冷静沈着に仕事だけをこなすという教師像にピッタリとハマっている。得てしてこういう映画の展開は、クールな大人たちが情熱的な生徒たちの行動に徐々に心を動かされる展開になりがちですが、本作は生徒側にもいろんな問題を抱えて、すんなりと型に収まっていない。教師も、生徒も、個として淡々と生きる中で、それでも日常の淡々に何か変化をもたらすべく、合唱に打ち込んでいく姿というのに話の熱が帯びてくるのです。

考えてみれば、学校での部活やサークル活動のようなものって、単に楽しみたいという人もいれば、大会に出て評価されたい、それこど合唱なら歌や音楽の道に進みたいと思っている人もいたり、それぞれに求めるものは違うんだろうなと思います。その中でも大事なのは、”みんなで何かをやる”ということに情熱を傾けるということじゃないでしょうか。組織と個の二項対立なんて、大人になれば、家族と自分だったり、会社と自分だったり、いくらでも現実問題として考えないといけないことは多い。部活は、その練習だというと身も蓋もないけど、1つ好きなことをみんなで共有し、熱意をもって取り組める瞬間って、大人になるとそんなにない。だから、この今という瞬間を信じて突き進むこと。この映画は、そんなことを美しい歌とともに教えてくれるような気がします。

前半はバラバラだったそれぞれが、後半は合唱コンクールというところに向かって突き進む。いろんな事情で集まった合唱部が、それこそ1つの目標に向かって進むというのは、単純にいいなーと思います。ただ、お話としては、個で動いていた前半部が面白く、後半が普通の部活ドラマになってしまったのが(しょうがないところでもあるのですが)痛し痒しなところ。それでも前半部でクールな一面しか見えなかった主人公が、後半はそのクールさの裏に熱い塊を秘めていくところのキャラクター変化が観れるのは面白いところでもあります。

次回レビュー予定は、「アメリカン・スナイパー」です。

preload preload preload