3月 18

アメリカン・スナイパー

「アメリカン・スナイパー」を観ました。

評価:★★★☆

ネイビー・シールズ(米海軍特殊部隊)のスナイパーとして、イラク戦争に従軍したクリス・カイルの回顧録をクリント・イーストウッドが映画化した作品。今年(2015年)のアカデミー賞にも主演男優賞をはじめ、いくつかノミネートされていたので知っている方も多いかもしれません。本作を観て、僕はイーストウッド監督との相性が微妙だなと痛感しました。「スペース・カウボーイ」や昨年の「ジャージー・ボーイズ」のような傑作と思える作品もあれば、「ミリオンダラー・ベイビー」や「父親たちの星条旗」など、よくできてはいるんだけど作品のテーマとして相容れないところがあると一歩引いてみてしまう作品もあるという感じです。本作は、残念ながら後者かな。すごいと思えるシーンは多々あるのですが、全体を通すと少し一歩引いてみてしまう自分がいるのです。

まず、本作の凄いと思うのは、スナイパーという特殊な職務を忠実に描いているところです。味方の作戦遂行を高所から支援すると同時に、索敵にも近いところが任務としてもあり、危ういと思ったら自らの決断で引き金を引かなければならない。瞬時な判断力とともに、長時間の任務遂行にも耐えられる持久力もいる。特に、排せつの処理も二の次で、スコープをずっと見続けないといけないところなどは地味に大変さをよく描いているところだと思います。

それに中盤にある砂嵐が襲う中での作戦場面などは、まるでゲームのような没入感あふれる映像。この絵づくりに、本作にかけるイーストウッド監督の想いを見ることができます。冒頭から、帰還した後と作戦下の様子が交互にフラッシュバックする形で描かれるのは、時系列としては少し混乱するきらいもなくはないのですが、主人公カイルの心が戦争によってかき乱される形がよく表現されていると思います。

作品としては、クリス・カイルという人物がアメリカにとって、偉大な英雄であると同時に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされていた孤高のヒーローとして描かれています。どうも戦争におけるヒーローという扱いが、個人的にはしっくりとこない部分かなと思います。カイル自身も、映画の中でヒーローとして描かれるよりは、むしろいろいろな苦しみを抱えながら戦争下を乗り越えた一人の男として描かれたかったのではないか。映画のラストシーンとなる当時のドキュメント映像を見ながら、そういう想いに駆られてしまいました。

次回レビュー予定は、「ソロモンの偽証 前編:事件編」です。

preload preload preload