4月 01

風に立つライオン

「風に立つライオン」を観ました。

評価:★★☆

アフリカ・ケニアでの巡回医療に携わる医師の物語からインスピレーションされた、さだまさしの名曲「風に立つライオン」を、同氏が小説化したものを原作とした映画化作品、、、とちょっと映画化の経緯が少し複雑な作品。実際に、映画のモデルになった柴崎紘一郎という人物や、遠く恋い焦がれた医師・秋島のモデルになっている人物も実在していて、歌のほうに関しては、この遠く離れながらも、医療という枠組みで通じ合っている様を壮大に謳いあげています。映画もそれに準じるような形になっていて、航一郎(本作主人公の役名)という役柄にほれ込んだという大沢たかおと、長崎の過疎地で医療を続ける秋島演じる真木よう子とのエピソードはお話の中の軸にもなっています。

観ていてすごいなと感じるのは、青年海外協力隊の活動にしろ、国境なき医師団にしろ、日本という枠を大きく超えて、戦時下で苦しむ人たちのためにアフリカの奥地に切り込む人たちが多くいるということ。映画のモデルになる航一郎も、最初は大学の派遣で現地に入るのですが、そこで失われる多くの若い命の現実を知り、その地で腰を据えて医療に取り組もうとする。そこには我というものはなく、全て人のため、ひいては医療のために身を投じていく、一人の生き方があるのです。映画では対になるように、本来は継ぐつもりはなかった離島医療に全力を注いでいく秋島の姿も描かれる。紘一郎はアフリカ、秋島は過疎地という違いはあるものの、互いが医療が不足している僻地で、我を超えて打ち込んでいく姿には胸が熱くなるものがあります。それに航一郎と秋島は研修医時代に惹かれあっていて、それが遠く離れても、医療という枠で同志愛として受け継がれていく。この辺りの描き方もとてもドラマチックになっています。

このように感想を書くと、とても素晴らしい作品になる感じはあり、実際にいい作品なのですが、僕は映画としては今一歩何かが足りない感じがしました。冒頭の3.11震災に絡めた描き方も、医療という行為が距離や時代を超えて、ただ人を救いたいという一心でつながっていくことを描きたいという意図があるのは分からなくはないのですが、エピソード間のつながりにもう一工夫マジックが欲しい気がするのです。インスピレーションを得ている元ネタはあるとはいえども、全体的にはフィクションという構成になっている以上、工夫し所はあるように思うのですが、それぞれの話のボリュームとしては想像の域を出なかったのが少々残念なところです。リズム感も悪く、2時間半と少し長尺な作品になっているのもマイナス評価してしまうところです。

次回レビュー予定は、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」です。

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