5月 21

グッド・ライ

「グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~」を観ました。

評価:★★★★

映画とは全然関係ないが、最近、フィギュアスケートの浅田真央が休養から、現役復帰というニュースが流れている(2015年5月現在)。フィギュアスケートにおいて、浅田真央とキム・ヨナ(2014年に引退)のメダルを賭けた対決というのは、日本人なら誰しも興奮しただろうけど、特に引退前後での対決では、キム・ヨナの圧勝ということが多かったように思います。一回、フィギュア連盟がある大会で出した彼女ら二人の得点表というものを見たことがあるのですが、演技点でも、技術点でも全ての項目が高得点なキム・ヨナに対し、浅田真央は奥義であったトリプル・アクセルの技術点は突出して高いものの、後の得点は高水準のものもあれば、凡庸なものも続くという好対照だったことをよく覚えています。もちろん、競技としては総合点で争う以上、キム・ヨナの全ての点で高いレベルをクリアするというアプローチが、最終的な彼女の女王ぶりというのを象徴していたかなと思います。

こういう話を持ち出したのは、映画の評価にも同じような形があるなーと思うことが、最近は多いからです。特に、アカデミー賞とか観ていると、最近は浅田真央型というか、ある1つの点で100点満点で150点くらいを叩きだす作品が傑作として評価される傾向が強いのかなとも思うのです。それは作品だけではなくて、役者の演技という面でも然り。全ての点でオールマイティな演技をできるというよりは、何か苦労して、傑出した才能を魅せた人が評価されるということが多い。僕は、それもそれであるとは思うのですが、映画は役者も、映像も、音楽も含めた総合芸術だと思う(もちろん、お話重視というのはありますが)ので、トータルでよいという作品に出会いたいもの。それを求めて、いろんなジャンルの作品を見続けているのです。

というわけで、ようやく本題(笑)。そういう浅田型な映画が多い中、本作はキム・ヨナ型で、全ての面で高いポテンシャルを発揮してくれる作品になっているのです。スーダンの内戦で、その後難民キャンプに移住した難民たちの物語。作品では、前半が1983年のスーダン内戦で家族を失いながら難民になっていく少年少女たちを、後半は青年になった彼ら彼女らが、アメリカに移住してから巻き起こる物語を描いています。

この作品、突出した何かがあるかというと、そういう目線では何もない作品なのかもしれません。しかし、スーダン内戦を描く前半部で、家族を失い、一緒に逃げてきた友を一人、また一人と失っていく様を、すごくリアリティある形で描いていて、逆にそれが解放されていく後半部への希望に上手くつなげているのです。アフリカとアメリカ、異なる環境ながらも、地道に一歩ずつ明日に向かって生きていく彼らの姿を、文化の違いをユーモラスに描きながら、真摯に生きていく彼らの姿に、アメリカで迎える人たちの心も徐々に違った形で開いていく。しかし、苦しい過去を背負ってきた彼らが、真に解放されるのは、映画の終盤でつかれる1つの嘘。人が生きていくということは、本当に苦労という言葉の連続でしかないけど、その中で人が人を想う気持ち・それに伴う行動というのに、人は救われていくことに気づかされる良作になっています。

次回レビュー予定は、「妻への旅路」です。

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