7月 13

百日紅

「百日紅 Miss HOKUSAI」を観ました。

評価:★★★★

江戸風俗研究家でもある杉浦日向子の同名原作を、「カラフル」、「河童のクゥと夏休み」の原恵一監督がアニメ映画化した作品。日本のアニメ映画界では宮崎駿監督が引退し、その後を継ぐというか、ジブリ以外の潮流というのが長年求められていますが、僕は原監督にも、その一翼を担ってもらいたいと常々思っています。原監督といえば、言わずもながの代名詞ともなる作品が「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」であるわけなんですが、あれだけのパワーを持った作品というのが、正直、その後の作品にはない印象があります。「クレしん」の場合は、原作コミックの登場キャラクターが強烈に振れているので、それが原監督がもつ現実と虚栄の狭間にある異空間世界と見事に共鳴したわけですが、「カラフル」にしても、「河童のクゥと夏休み」にしても、はてまた劇映画となった前作「はじまりのみち」においても、やはり日常という普遍的な静を中心にしたいというのが、この人のスタイルないかと感じています。その意味で、江戸の日常とそこに潜む幻影の魔物たちを描く本作は、原監督の持ち味がすごく発揮された作品になっています。

それこそ宮崎監督の「千と千尋の神隠し」ではないですが、日常という中に、神なり、魔物なり、妖怪なりが潜んでいるというのは、今も昔も変わらないんじゃないかなと思っています(日常、見ることはありませんが笑)。それこそ近代化した明治以前、江戸時代までは、それこそ毎日の生活の中に、彼らを敬い、如何に共存していくかということを真剣に考えていたのではないかと思います。それこそ、科学的に見れば非現実的と一掃することもできますが、宗教学的に見ると日常の中に神とともに生きていくということを身近に捉えられた。本作は、それを日本の伝統技術である浮世絵の世界の中で、対峙していった人たちを描いた物語になっています。

映画全編を通して、異世界と現実とをつなぐ絵づくり、物語づくりが、すごく緻密で見応えあるものになっています。色に対しても彩度が低い単一色はとことん避け、日本画にあるような淡いモノトーンな色を巧みに構成させています。ただ、原監督ならではというか、原作がそういうスタイルなのかもしれないですが、物語自体が短編ストーリーを組み合わせたものに過ぎず、物語構成は一筋通ったもののがあるものの、ダイナミックに話を引っ張っていく要素がないのが映画としては少し物足りないかもしれません。しかし、江戸という非日常が近くにあった時代の毎日を、一人の女性目線で見つめた物語としてはすごくシンプルにいい作品に仕上がっていると思います。

次回レビュー予定は、「バケモノの子」です。

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