7月 15

バケモノの子

「バケモノの子」を観ました。

評価:★★★★★

「時をかける少女」で注目され、「サマー・ウォーズ」、「おおかみこどもの雨と雪」と作品も、興行成績も着実に成長させている細田守監督の2015年最新作。先日、「百日紅」で原恵一監督を紹介しましたが、この細田監督も、日常世界と異世界とを描く監督さんでもあります。デビュー作の「時をかける少女」は現在と、過去・未来という異空間を結んでいたし、「サマー・ウォーズ」ではインターネットの仮想世界と現実とを、前作「おおかみこども~」では、本作と同じような世界観で、人間と獣たちが生きる世界をつないだお話でした。ただ、原監督は、その狭間に生きる人や妖怪といった現れるキャラクターたちに着目しているの対し、細田監督はいろいろな世界があるものの、その世界をまたにかけて生きていく主人公たちの生き様に焦点を当てていることが、若干(というかだいぶ)違うかなと感じます。どちらがいい、悪いの問題ではなく、そもそもの着眼点が違うので、細田監督作品というのは自然とダイナミックに話が動いていく形にどうしてもなってくるのです。

その意味で、前作では”おおかみこども”という獣とのハイブリット種として生きていかないといけない主人公たちと、それを影ながら支え、応援していく母親を描いた、どちらかというと”母性”が中心の作品だったかと思います。それに対し、本作はもう1つの大事な要素・”父性”を描いた作品であると、僕は感じています。人が子どもから成長していく過程において、母親的要素はもちろんのこと、意外と見過ごされやすい父親的要素というのは重要だったりします。主人公も男ですし、僕も男ながら思うのですが、父親という存在は生まれたときに一番の相棒であり、成長していく過程においては、それを乗り越えなければいけない存在だったりするのです。

主人公の少年は母親中心に育てられながら、ある日、不幸な事故で母親を亡くし、父親の所在が分からない中、孤児状態となり、渋谷の街をさまよいます。そこで出会ったのは、バケモノの国という異世界から訪れていた剣士・熊徹。凄腕の剣士でありながら、元来の暴れん坊の性質から弟子がなかなかつかなかった熊徹は、少年を誘い、彼に九太と名付けて弟子に育てようと画策します。しかし、母親の死後、人を信じられなくなっていた九太は、熊徹に反発しながらも、行く宛てもなく、仕方なくバケモノの国にて修行生活に入っていくのです。

少年は成長していく過程の中で、どうしようもない自己の反発心を父親に対してぶつけていきます。それが多分、反抗期とかに現れるんでしょうが、九太は幼い頃に遊んでもらいながら、家に帰ってこなかった父親へのどうしようもない苛立ち自体も、師匠である熊徹にぶつけていこうとするのです。最初は手に追えないと思っていた熊徹も、仲間に支えられながら一心に反発してくる九太を、ある時点で育てていくことを決意していくのです。映画では明確には描かれませんが、それが物語の中で自然と切り替わっていく様は、とても自然で見事なものです。目の上のたんこぶでなかった存在が、やがて愛おしいものに、そして自分の心の中の武器に変わっていく、、、それは誰しもが、父親に感じ、求めているものを的確に表しているように思い、涙が止まらないシーンとなっていました。

映画はそうした物語をダイナミックに描きながら、一方で、少年と現代の卑屈に生きなければいけない女子高生との出会いも並行して描かれていきます。中盤以降は、少しエピソードがてんこ盛りすぎる感はなくもないですが、終盤の渋谷から代々木辺りにかけての決闘シーン(東京が分かる人だと、十二分に楽しめることでしょう笑)も見ものの1つです。久々に映画を一本、最初から最後まで堪能できる作品になっています。

宮崎駿監督以後の日本アニメ界を立つ大本命。どこかジブリっぽい描写も感じられる新しい大御所・細田監督の、今後の動向に要注目です。

次回レビュー予定は、「ゼロの未来」です。

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