7月 22

パレードへようこそ

「パレードへようこそ」を観ました。

評価:★★★★☆

1980年代のサッチャー政権下のイギリスで、不況のあおりを受けて閉山に追い込まれるウェールズの炭坑夫組合と、その運動を支援した同性愛者グループとの懸け橋的な物語を描いた作品。政治的な思想を保守(コンサバティブ)、革新(リベラル)と分けて考えると、同性愛者や労働組合というのは、どちらもリベラルなほうに分類されることが多い。しかし、同じリベラルなグループでも、一方は都会の真ん中で自由を謳歌する人たちで、もう一方は地方で毎日のつつましい生活に幸せを感じる人たち。リベラルといっても、中身は水と油みたいな存在で決して交わることはない2つのグループが、同じ政治的かつ社会的な立場からの反抗という意味で協同していくから、世の中というのは不思議なものです。それでも決して思った通りに、コトが進んだわけではないのです。その中の悲喜こもごもを、コミカルに、そしてシニカルにも描いている良作だと思います。

中身は本当にイギリス映画らしい演出が見えます。コミカルで、ゲラゲラ笑えるような描写がありながらも、世間や社会から向けられる厳しい目、裏切りなどもあり、それぞれのキャラクターたちが傷つきながらも前に向かって歩んでいく。現実は、映画のように垢抜けたお話ではないにしろ、映画だからこそ、それぞれのエピソードでの笑いや、演じるデフォルメされた濃いキャラクター像というのが、辛い物語でも、それを乗り越えていった人々の偉大さや軌跡というものに素直に感動できる作品に仕上がっていると思います。同じ閉山する炭坑町の物語で、同じイギリス映画といえば、1997年に公開された映画「ブラス」がありますのが、ドラマとしては本作のような底抜けの明るさが全編にわたってあるほうが、観ている方も素直に楽しめると思います(「ブラス」はラストシーンで感動しますけど)。鉄鋼町の閉鎖になりますが、明るい形になっていた映画「フル・モンティ」(98)に近い感じもします。

イギリス映画なら、この人というヴァイブレータとして、ビル・ナイや、イメルダ・スタウントンなどが出演しているところが嬉しいところ。特に、スタウントンなんて、日本流にいえば、すごく肝っ玉の据わった”おかあちゃん”みたいな存在のキャラクターを熱演しています。お話の主軸は、同性愛者グループに参加していく若者が主人公のはずなんですが、それぞれのグループに登場している他のキャラクターの味が濃すぎて、メインのストーリーが少しボケてしまったのが残念なところ。エンド・クレジットで、登場キャラクターのその後もクレジットされますが、映画にはあまり登場してこなかった人たちにも話が及ぶので、その辺りも含め、少しまとまり切らなかった感はなきにしもあらずといったところ。しかし、本作にとっては、それらは小さな傷に過ぎないと思います。パワフルなイギリス映画の味を知ることができる、秀作になっています。

次回レビュー予定は、「ターミネーター:新起動/ジェニシス」です。

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