7月 31

駆込み女と駆出し男

「駆込み女と駆出し男」を観ました。

評価:★★★☆

作家・井上ひさしの晩年に書かれた同名時代劇小説を、「母の記」、「クライマーズ・ハイ」の原田眞人監督が映画化した作品。原作は、井上ひさしが11年をかけて書き上げたとされる「東慶寺花だより」からきているらしいですが、駆込み寺として名高い寺の複数エピソードのうちの数点を映画化しているように思います。原田監督作品ということで、2012年の邦画ベストテンで堂々と1位にした通り、僕は人間劇を描くうえでは、この人以上に上手い人というのは日本ではいないんじゃないかと思うくらいに高評価しています。「突入せよ!あさま山荘事件」でも、「母の記」でもそうですが、複数人がうごめいて、1つの大きな事件なり、エピソードを巻き込みながら、物事を動かしていく様は力量をいかんなく発揮してくれる。ただ、その中から数人に絞った物語になると、極端にもろさが出るというか、元来の真面目な描き方が映画作品としての面白みを薄めているように思うのです。この作品では、その悪い一面が少し顔尾を出しているように思います。

本作で、映像としてのセンスは原田監督の持ち味がすごくよく出ています。群像劇にしたときの、会話劇の主役を常にフレームから外れないように追っていく様を描くことで、複数人が舞台に上がっているときの活況さをうまく表現しているのです。ただ、作品中で戸田恵梨果演じるじょごと、大泉洋演じる信次郎とのロマンスという物語の主軸となる部分があるのですが、映像からは残念ながら、この二人がお互いを意識して付き合っているというのはお話としては分かるものの、色恋を感じさせるようなムードが全然出てこない。リアルスティックにこだわる原田監督が、リアルなままに惹かれあう二人を映像で追っているだけなので、彼らの深層に芽生えているハートの部分は全然見えてこないのです。

ロマンス部分でロマンスを感じることができないという大きな欠点はあるものの、史実として、江戸の世の中で離縁というのが今より複雑な制度(書面上というよりは、縁故上難しい)であったということ。それでも、人は恋をしながら、愛情を感じながら、毎日を営んでいきたいという普遍的な想いがあったことはよく分かります。ドラマをリアルドキュメンタリーとして、感じるにはこれで十分なんですが、作家・井上ひさしが、この中で描きたかったことは残念ながら、そこではないようにも思います。ただ、至るところの映像センスは抜群に優れていて、こういうカットを撮るかと思わせるところ(例えば、ラストでじょごと信次郎が御用宿から出てくるシーン。あういう暖簾越しに撮りますか、、笑)が結構あるところが面白かったです。原田監督は今夏にも続けて一作控えているので、今から楽しみです。

次回レビュー予定は、「人生スイッチ!」です。

preload preload preload