9月 28

ぼくらの家路

「ぼくらの家路」を観ました。

評価:★★★★★

ベルリンの街を舞台に、10歳の少年ジャックとその弟で6歳のマヌエルが、突然いなくなった母を求めて、街中を彷徨い旅する3日間を描いたドラマ。日本での公開は2015年ですが、製作年は2013年と少し前の作品ということになります。あまり言いすぎるとネタバレにもなりますが、これはドイツ版の「誰も知らない」だと思いました。母が突然いなくなり、取り残された子どもたちが街を彷徨い行くというのは同じプロット。ただ、「誰も知らない」は家はあるものの、子どもたちが自力で生きていく姿を描いたのに対し、本作は家には入れない(母親が鍵をもっていなくなったため)ものの、養護施設に預けられるという設定など、主人公二人の少年たちに周りの大人たちが何らかの形で関与しているというところが違うところになっています。

これを見ていると同じような作品でも、日本とヨーロッパとでは国民性が少し違うのかなと思います。日本では孤独死というのが話題にもなるように、「誰も知れない」で描かれるような子どもたちの社会というところでも、周りに関わって生きていくことがみっともないという視点があるのかなと思います。助けを求めたいときは大声で何かしら叫べばいいのに、それを恥と思ったり、逆に、どこに助けを求めればいいかも分からない。それは教育という問題もあるかもしれないですが、どこか自分のことで精いっぱいで、周りのことは関わらないという少し閉鎖的な社会の雰囲気を感じます。逆に、本作でも子どもたちは必死に生きていこうというのは同じ。それでも、周りの大人たちの社会に対し、少しでも利用しようというか、文字通り、サバイブしていく子どもたちの姿がある。島国という列島文化と、生きていくためにはしのぎを削らないといけない大陸文化の差といっては元も子もないですが、どこの厳しい社会でも生き抜いていこうとする気合が、本作には感じられるのです。

予告編で観れるように、主人公・ジャックを演じるイヴォ・ピッツカーのとかく頑固で力強く、それでいて友だちや弟想いな優しさを内面に秘めているという繊細な演技が見事の一言。それに従順についていく、弟マヌエル役のゲオルク・アルムスもしっかりついていくのが凄い。二人が街中をサバイブしていく中で、壁を乗り越えたり、荷台に駆け上がったりと、すべての一挙手一投足がとても自然で、本当にストリートを生きている子どもたちのようなリアルさを感じることができます。しかし、その辺りにあるような子ども主役のスラム映画とは一線を画しているのが、ダメな母親でも必死にすがって生きたいというジャックとマヌエルの真摯な目線に他なりません。この物語の核がしっかりしているからこそ、少年たちの自然な行動も相まって、作品の力強さに貢献していると思います。

必死に生きて、母親を探そうと一途なジャックとマヌエルの旅。同じ街中で、そんなに大きな距離を移動する旅ではないものの、彼らが旅の過程で感じたことが、ラストのジャックの行動へつながっていくのです。人生は長い旅、ジャックとマヌエルにとって、この三日間は人生の上で貴重な旅となるのです。

次回レビュー予定は、「ジェームズ・ブラウン 最高の魂を持つ男」です。

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