10月 23

ターナー、光に愛を求めて

「ターナー、光に愛を求めて」を観ました。

評価:★★★☆

18~19世紀にかけて、”光”を印象的に捉える画家として多くの人々に影響を与えたイギリス人画家J・M・W・ターナーの半生を、「秘密と嘘」の巨匠マイク・リー監督が映画化した作品。ターナーは好きな画家の一人で、何年か前に都内で偶然入った美術館(渋谷のBunkamuraだったと思うのですが)でやっていた展覧会には、それほど目を見張るターナーの素晴らしい作品に感激した覚えがあります。ターナーの特徴は、本作のタイトルにあるように”光”の捉え方にあります。若き頃(ミルバンクの月光とか)はやや写実的なのですが、後期になればなるほど印象派の色合いが濃くなり、吹雪、平和・水葬などの作品は、もう現実的な物体はそこになく、あくまで自然が作り出す光の構成をそのまま絵にしたような強烈なインパクトのある作品が続きます。日本でも割合人気のある画家で、定期的に展覧会も開催されるので、是非お近くで出会う機会があれば見てほしいなと思います。

というわけで、映画のほうはそうした自然と人間との対峙を、”光”をテーマに捉えてきた彼の生き様がうまく表現されています。予告編を観ただけでも感じられるように、まずは各代表作のモチーフとなる、実際の映像が本当に美しいの一言。実際に、ターナーが見て感じたであろう風景をそのまま切り取っているように(映画で)見えているということは、ターナーの心の中に想起される美しいという感覚を、映画館にいながらにして体験できるということです。これは素晴らしいの一言。アカデミー賞やカンヌ国際映画祭など、その撮影力の本気度に芸術的な評価をされていることも頷ける出来だと思います。

ただ、惜しいのは、そうした映像の素晴らしさに対し、物語のほうが少しピンボケした印象がぬぐえないところでしょうか。ターナーの生き様、家族、そして愛する人とのやり取りなど、お話としては一通り展開していくのですが、どれもターナーの人生における一場面ずつを切り取っているにすぎず、全体としてダイナミックにまとまったメッセージ性のようなものが感じられないのです。ターナーという人の伝記なので、それはそれでいいじゃないかという人もいるかもしれませんが、伝記映画であっても、その人の何を主軸に描くかで作品のテーマというのは浮かび上がってくるものだと思うのです。本作には残念ながら、それが感じられなかった。ターナーを演じるティモシー・スポールも名演技を魅せているのに、ただただまとまりのないお話とテンポの悪さ(+150分と少し長尺)と相まって、後半に行くほど観ている方がなんだか疲れてしまうのです。いい素材がギュッとつまっているのに、非常にもったいない作品だと思います。

次回レビュー予定は、「海賊じいちゃんの贈り物」です。

preload preload preload