10月 29

僕は坊さん。

「ボクは坊さん。」を観ました。

評価:★★★★

糸井重里氏が主宰する『ほぼ日刊イトイ新聞』で連載された白川密成氏の体験記『坊さん。57番札所24歳住職7転8起の日々。』(長い、、、)を映画化した作品。ちなみに、書籍のほうは映画のタイトル通りの「ボクは坊さん。」となっているようです。一般人がいきなり坊さんになる類のお話ではなく、お寺の跡継ぎとして生まれ、仏教系の高野山大学で仏門に入る準備はしていたが、実際は仏門にはすぐ入らずに一般社会人として暮らしていた主人公が、住職の急逝に伴い、お寺の世界に入っていくお話となっています。映画の設定を見る限りでは、主人公は住職の孫なのですが、父親は婿入りしており(だから、母親が住職の子)、孫が跡継ぎと期待されているといった感じの背景のような気がします。まぁ、設定どうのこうのよりも、お寺素人だった主人公が、仏門に入って知るお寺の体験記のような形の作品でしょうか。

こうした仏門にチャレンジする形の作品といえば、周防監督作、本木雅之主演の「ファンシィダンス」を思い出しますが、あちらはお寺の跡継ぎ息子で、ろくに仏門のなんたるかも知らずに家業のために禅寺修行に励むというお話でした。本作が少し違うのは、実際に仏教の何たるかは大学に通うことで理論も実践も素養として一通り収めているものの、大学では教えてもらえない(これが意外でしたが、、)お寺の運営としての側面で知る、いろいろな事柄が面白おかしく描かれていることでしょう。現代社会においては、お寺といえば葬式(稀に結婚)ビジネスが主流で、あとはせいぜい元旦の初詣、夏や秋のお祭り時期に絡んでくるくらいが一般人の認識でしょう。しかし、特に地方には未だに檀家という制度の残っているところもあり、地方の各イベントはお寺の行事として密接に関わっているところもあります。そこに人が集えば、コミュニティが生まれ、ビジネスが生まれる。そうした地方の昔ながらのお寺を中心とした営みが映画では描かれています。

ただ、この映画はそうしたお寺ビジネス周りのお話はあっさりしか描かれず、主人公・光円が住職(というよりは僧侶)として生きていく苦悩に焦点が当たっていきます。人は誰しも生き方に迷うもの、特に、昔以上に多様な価値観をもつ現代にあっては、宗教が教える一本調子な教えというのは信じうるに耐え難きものになっているのかもしれません。それが光円の幼馴染・京子にふりかかる不幸や、その夫の身勝手と思える行動、大学の同級生・栗本の抱える悩みだったりに表現されています。僧侶であれば、彼らの行動に対し、教え導ける術をもっているべきなのかもしれないですが、光円にできるのは彼らと一緒に悩み支えることだけ。しかし、ここに現代を生きる僧侶の新しい形があるのではないかとも思うのです。

東京に住んでいるときに、仏教系の大学に聴講しにいってたこともあって、仏教関連のものなら何を言わなくても高評価してしまいますが、本作もその一本かもしれません(笑)。何と言ってもいいなーと思うのは、朝日が差し込む中での御堂や境内の凛とした空気感がドンピシャに描かれていること。やはり、こういうのを見てしまうと、寺院と関わる日常というのに少し憧れを持ってしまいます。

次回レビュー予定は、「みんなの学校」です。

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