11月 02

ヒトラー暗殺、13分の誤算

「ヒトラー暗殺、13分の誤算」を観ました。

評価:★★★★☆

1930年代後半から、ドイツ国内にて勢力を増し、台頭してきたのがヒトラー率いるナチス政権。ナチス総統であるヒトラーによる暗殺計画は映画にもなった1943年に起きた”ヴァルキューレ計画”(トム・クルーズ主演の「ワルキューレ」で映画化)が有名ですが、1938年のオーストリア併合直後に家具職人ゲオルク・エルザーによって計画された爆破暗殺事件を描いたものが、本作となっています。監督は、「ヒトラー 最期の12日間」でもヒトラー関連作をメガホンをとった、オリヴァー・ヒルシュビーゲルが手掛けています。

本作はゲオルクが爆破計画のため、ミュンヘンのビアホール「ビュルガーブロイケラー」に忍び込むところから始まります。歴史を知る私たちにとって、この1939年に起こった事件は未遂(失敗)に終わることは分かっています。爆弾設置から逃亡を図るゲオルク、直後につかまったところから、取り調べと回想とか交互になって、一介の家具職人でしかなかったゲオルクがなぜ、このような大胆な計画をしていったのかの背景が徐々に分かってくるような作品構成になっています。

この映画で面白いのは、あまり描かれることのないナチスがどうやってドイツ国内にて台頭してきたのか、ゲオルクが住んでいたハイデンハイムという一地方ではありますが、その断面を描いていることでしょう。貧しくも穏やかだったドイツの一地方に、ナチスという希望の光が登場してくると同時に、その威光とともに人として傲慢になっていく人たち。他方、共産主義者から始まり、ユダヤ人に対する排斥も日に日に強くなり、同じ地域で暮らしていたはずっだった人たちの中でも急に後ろ指を指されてくる人たちもいる。地方コミュニティの中でも、支配するもの、蔑まされるもの、そして無関心を装うもの、、戦争場面は出てきませんが、何もなかった地域に、こうした目に見えない社会格差が生まれることが、そもそも戦争という異常事態に突入していることを映画では恐ろしいほどまでに自然と描かれていきます。

そうした中で、誰にも指図されることなく、自らの中で持つ危機意識の中で動いたゲオルク。彼の存在は当時は異常者、異端者ではあったものの、今でこそドイツレジスタンスの先駆けとして、ヒーロー視されていることが、この映画を観ても分かります。ゲオルク演じるクリスティアン・フリーデルの好演もあり、繊細でひ弱そうな容貌とは裏腹に、静かに内に闘志を秘める姿というのが作品にもうまく投影されています。映画の構成として、ラストのある種の境地に立った部分をもう少し前面に押し出せば、「戦場のピアニスト」のように神格化したヒーロー像というのがもう少し強調できたかとも思いますが、これはこれで十二分に傑作と呼べる作品だと思います。

次回レビュー予定は、「アリスのままに」です。

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