11月 04

アリスのままで

「アリスのままで」を観ました。

評価:★★★

50歳にして若年性アルツハイマーにかかった大学教授にて、言語学者のアリスを、「エデンより彼方に」のジュリアン・ムーアが演じた作品。本作で、ジュリアン・ムーアは今年(第87回)アカデミー賞の最優秀主演女優賞をはじめ、各映画賞を総ナメにしています。原作はリサ・ジェノヴァの同名小説、監督はほぼ初映画監督に近い、リチャード・グラッツァーとウォッシュ・ウェストモアランドの二人が担当しています。

若年性アルツハイマーの主人公を演じた作品といえば、近作では(邦画ではありますが)、渡辺謙主演の「明日の記憶」が思い出されます。それとどうしても比べてしまいますが、日米という文化の違いはあるものの、本作はどこか物語として美しすぎるかなと思います。「明日の記憶」のように、モノ忘れや簡単な記憶障害から始まり、日常生活を送るのもの困難な末期まで描いてはいなく、比較的初期の段階までで終わっているからかもしれないですが、記憶をなくす怖さや苦しみは感じるものの、第三者的に見て汚らしいまでの七転八倒というところまでは全然到達していない。病気の苦しみというのは、単純に今までの生活が送れないというだけではなく、人間という動物が出す生物的な苦しみみたいのもあると思うのですが、本作にはそれが兆しに見ることはできなかったかなと思います。

それも、主人公が大学教授という設定からくるものかもしれません。言語学者として、自分の仕事としても理路整然と進めないと成り立たないこと、おまけに自分の分野でも数輝かしい実績を持ってきたアリスが、突然小さい子でもやっているようなことができなくなってしまう苦しみ。それは彼女が仕事でも、家庭でも築いてきた一定のプライドのようなものを、根本から崩すことに他なりません。本作はどちらかというと、人としてのアルツハイマーの苦しみというよりは、大学教授で主婦としても有能だった一人の女性の苦しみとして捉えたほうがいい作品かもしれません。

次回レビュー予定は、「カプチーノはお熱いうちに」です。

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