11月 09

エール!

「エール!」を観ました。

評価:★★★☆

聴覚に障害がある一家の中で、唯一耳が聴こえる健常者として生まれてきた娘ポーラ。彼女は一家の耳になるとともに、酪農を営む一家の家計を支えるのにも重要な役割を果たしていた。そんな最中、偶然に参加した学校のコーラス授業で、ポーラに歌の才能があることが発覚するのだが。。フランスで公開されるや大ヒットになり、主演ポーラを演じるルアンヌ・エメラがフランスのアカデミー賞であるセザール賞の最優秀女優新人賞に輝いた作品。基本的には、耳が聴こえないペリエー一家の中で、耳が聴こえるポーラと、彼女以外の家族とのやり取りが面白おかしく、軽やかなタッチでコメディになっている導入部がなかなかよくできています。ファレリー兄弟作品なんかの中でも、障害を笑いに変えるということをやっている作品もあるのですが、結構これもデリケートな問題。それを耳が聴こえないということは、あくまでその人のユニークな個性でしかないと位置づけていて、それだけで観ている人の気持ちを鷲づかみにしてくれるのです。

話の展開としては、歌の才能に目覚めていくポーラが愛する家族と、自分の好きな歌、そして、歌手を目指していきたいという自分の夢の板挟みにあって苦しんでいきます。しかし、シリアスにその苦しみが前に出るのではなく、それも序盤の作風のままに、毎日足早にすぎていく日常の中で、ふとした瞬間に囚われる夢の想いという位置づけで進んでいくのが、これも作品をスマートに魅せてくれるポイントだと思います。映画なので、夢の実現と家族の幸せという大きなテーマにどうしても対峙したくなるのですが、考えてみれば、私たちの日常も毎日学校や職場に行き、勉強や仕事に明け暮れ、疲れて帰ってくる毎日が存在する。その流れる毎日の中で、ふとした瞬間に気づく幸せや夢への想いというのがあり、それをどう毎日という流れる時間に位置づけるのかが人生だと思うのです。決して止まってくれない日々。その中で、自分がどう生きたいかをその場その場で決断しないといけない。そうしたありのままの夢の姿を、この映画は描き出そうとしています。

面白いサブエピソードを挟みながら、予告編で想像がつくような映画の盛り上がりとなる後半へと作品はうまい具合につながっています。感動という一面だけでみれば、この映画は十二分にその期待を裏切らない出来にはなっていると思いますが、僕がどうしても気になったのは、あまりに家族や夢というところに焦点が当たりすぎていて、序盤から中盤にかけて提示されるサブエピソードの結末が若干尻切れトンボになっている点。ポーラの恋人となる歌のパートナーとの関係や、あまり描かれない弟とのつながり、父親が張り切って出た村長選の行方など、提示したはいいが、メインエピソードに尺を取られて、顛末をエンドクレジットで描くのみになってしまっているのがいささか残念なところ。これだけスマートさに気を配れ、出てくるキャラクターも面白いのに、そういう細部まで手が回り切れなかったのはいささか残念でもあります。

次回レビュー予定は、「グローリー 明日への行進」です。

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