11月 13

サヨナラの代わりに

「サヨナラの代わりに」を観ました。

評価:★★★★★

弁護士の夫とともに何不自由ない生活を送っていた妻に、突然起きた体調の異変。それは難病の筋萎縮側索硬化症(ALS)の発症の始まりだった。難病に侵され、身体の自由が奪われていく1人の女性と、彼女を取り巻く人々との交流を描いたのが本作。監督は「最後の初恋」、「プラダを着た悪魔」など大人な作品作りには定評があるジョージ・C・ウルフ。主演は、「ミリオンダラー・ベイビー」などの作品で知られるアカデミー女優のヒラリー・スワンクが演じています。

多くの、とは言わないまでも、大抵の映画ファンが感じるのは、ヒラリー・スワンクという女優の一種狂気じみたまでの女優魂というところでしょう。アカデミー受賞作でもある「ボーイズ・ドント・クライ」でも、イーストウッドと組んだ「ミリオンダラー・ベイビー」でも演じるキャラクター像と同じまでに、自己を痛めつける熱演を見せる。俳優としては力のこもったことではありますが、女優としてのきらびやかさや艶やかさというものを一種犠牲にしているようにも見え、彼女のキャリアとしてはどうなのかなーといつも考えてしまうところでもあります。

そんな彼女が久々に主演を務めた本作も、ALS患者を演じるという、一種の体当たり的な役どころ。ここでも女優としての華は、バイトとして介護助手を演じたエミー・ブロッサムに譲り、また自身は社会に一石を投じる悲劇のヒロイン像を演じ切ることに主眼をおいているように思います。でも、ここでのスワンクの姿は過去作品のような痛々しさはない。むしろ、頑として生き方を曲げなかった1人の難病患者を熱演しています。

本作のテーマはALSという難病ではなく、不治の病を抱えたことによる患者と周りの人の関わりの変化という点でしょう。特に象徴的に現れているのが、夫エヴァンとの関係。もちろん夫婦であるのだから、動けなくなっていく妻を介護することは当然なのかもしれない。でも、エヴァンが介護人を演じてしまうことで、夫と妻という関係は崩壊してしまう。彼女が快適に過ごせるようにあらゆる手を尽くすエヴァン。それが妻であるケイトにとっては、妻ではなく、病気の患者としてしか見てくれないことにいたたまれなくなってくる。だからこそ、終盤でエヴァンが見せる非情とも思える行動は、夫にはなりきれないまま、介護人として尽くしてしまった成れの果ての結論のようにも感じるのです。

同じことは高齢化社会に突入する日本社会でも、本作で描かれるようなことが至るところで起きていることと思います。僕は愛するからこそ介護するのではなく、愛するからこそ健康なときと同じようにパートナーであり、家族であり、友人であり続ける姿勢というのが大事なのではないかと思うのです。だからこそ、医療でも介護でも、最期の瞬間までそういった関係を壊さないように、産業として盛り上げ、それを社会が支える仕組みを作っていかないといけない。下流老人や老々介護の問題を聞くたびに切実に抱える問題意識を、この映画はいとも簡単に提示してくれることが観ていて素晴らしいと思える作品でした。作品の意図は、少し別のところにあるのかもしれないですけどね(笑

次回レビュー予定は、「奇跡の2000マイル」です。

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