12月 02

心が叫びたがってるんだ。

「心が叫びたがってるんだ。」を観ました。

評価:★★★★

劇場版が製作された「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の大ヒットで注目された、長井龍雪監督と脚本家の岡田麿里のコンビ作品。前作の「あの花」はテレビの深夜枠でやっていた同名アニメーションの劇場公開作品でしたが、本作に関しては完全な劇場オリジナル作品。幼い頃の何気ない言動で家族を崩壊させてしまい、それ以来、固く口を閉ざした少女と同じクラスの友人たちが繰り広げる高校・青春劇となっています。

本作で特に驚くのが、アニメーションといいながら、かなりリアルな高校生の群像劇を描いていること。冒頭こそ、主人公となる少女・成瀬順が一言も発することができなくなってしまった理由を、お伽話風に描いていくのですが、いわゆる子どもっぽいなと思うアニメ風タッチなのはここまで。高校生となった順となったシーンから、ラストの地域交流ふれあい会(いわゆる文化祭的なもの?)までは、とても大人な青春劇となっていくのです。

誰しも通過する、子どもから大人になる青春という間の時期。何を持って青春というのかは人それぞれだと思いますが、中学までと違い、高校になると、単純に友達との交際距離も一気に大きくなり、バイトもできて、ある程度自由になるお金も稼げるようになり、恋愛もするようになり、大学や社会という大人の世界に羽ばたく夢を追うこともできるようになる。何をしても、親や学校という枠の中で考えなかったところから、いろんなことが自由になり、勉強なり、趣味・特技なり、スポーツなり、部活なりで個性も伸び、単純にゲームとか、ママゴトとか、遊びだけで仲良くなれる人も少なくなってくる。個性的に自由になると同時に、すべて仲良くというわけにはいかなくなる大人の世界との、最後の境界線の時期。それが青春であって、その青春だからこそ輝けるってことを、この映画は一種恥ずかしげもなく(笑)描いていると思います。

本作を見る前に、観ていなかった「あの花」もDVD鑑賞しましたが、テレビシリーズの圧縮版ということもあってか、全編通じて感傷的に描こうとすることにかなり閉口しました。その意味では本作はあまり期待をしていなかったのですが、上記のように、リアルな青春劇を構築していることで、それぞれのキャラクターが比較的クールに見えることが成功している要因だと思います。いわゆる”大人ぶっている”高校生たちも、それぞれに大人になるために苦しみ、その苦しみを抱えていることをお互いに理解し合えるから友人として悩んでいける。大人になった僕から見ると、会話ができそうにない他人(大人の世界では無視してしまいますが)でも、同じクラスメイトとして真摯に語り合えた、あの頃というのが懐かしくもあり、照れくさくも感じてしまいます。物語の作りとしてはあまりに真っ当すぎて驚きはないですが、この真っ当さが逆に作品の熱さになっているとも思います。

次回レビュー予定は、「ギャラクシー街道」です。

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