10月 10

そして父になる

「そして父になる」を観ました。

評価:★★★★★

今年のカンヌ国際映画祭で審査委員賞を受賞し、日本公開でもメジャーどころな作品を押さえて公開週興行成績1位を獲得している話題作。僕自身、是枝監督は結構初期の「ワンダフルライフ」から観続けていますが、本作での話題で監督としても1つの高みに到達したかなーと思います(偉そうなコメントでスイマセン)。是枝監督は役者に演技をさせるというよりも、役者の個性を活かして、自然とその人から醸し出される空気で演じさせるという演出をしていると感じています。初期の作品では、それが脚本(ほん)と乖離していてフワフワとした印象しか残さないけど、本作などは日常のリアルなドラマとして地に足がついた作品に感じるようになりました。これが監督として、すごく力がついているところではないかなと思うのです。

本作のテーマはあまり描かれることのない父性(ふせい)というもの。お腹を痛めて子どもを産む女性は自然と母性が目覚めるといわれますが、父親というのは実質的な痛みはあまり伴わずに子どもができてしまう。僕は子どもがいないのでよく分からないけど、それは血の繋がっている他人がいきなりできるような感覚なのではないでしょうか? 最初は他人ではあるけど、顔や身体の特徴が似ていたり、しぐさが似てきたり、遊ぶ中で自然と家族としての関係性ができてくる。その中ではぐくまれる愛とは何なのか? その愛が取り違えという事件によって断たれたときにその愛は果たして残るものなのか? この映画はそれを描いている。

父性を描く映画だといっても、女性が共感できないかというとそうでもないと思う。子どもを持つ人はもちろん、持たない人でも子どもと大人の関係、子どもがどこで何を考え、行動するのかは感じるところは多い。「誰も知らない」、「奇跡」でも子役をうまく使った是枝監督だが、本作は子役俳優をうまく使うというより、俳優とはいえない子どもたちの自然な姿をスクリーンに投影しているのだ。琉晴役を演じた黄升炫くんなんか観てて、ほんと切ないうまい演技をするなーと思う(多分、本人たちは演じている感覚はないのだろうけど)。ラストは観ている人によって捉え方は違うのだろうけど、人はその中でも生きていくしかないのだ。

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