3月 10

ネブラスカ

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」を観ました。

評価:★★★★

「サイドウェイ」や「アバウト・シュミット」など、人がもつシュールな一面を描き続けるアレクサンダー・ペイン監督の最新作。僕はペイン監督の作品が大好きで、ケレン味のない、感情をもった人としての姿を、ずっと描いているところが気に入っている。恋愛とかは、特にそうなんだけど、人は人に対して虚勢を張ったり、見かけを繕ったりというのは、人が社会的な生き物だから仕方ないことだと思っています。でも、本当にやりたいことというか、人としての想いというのは、本能的な部分まで立ち入らないとなかなか分からないもの。きっと、そんな人の核<コア>な部分は、ドロドロしていて、決してスクリーン映えするような作品にはならない。それをペイン監督は独特の演出で、自然に、そして割とお洒落に見せてしまうことができてしまうことが凄いと思うのです。

本作は、ボケが入ってきて、詐欺と誰しも分かるような宝くじの賞金を受取りに行こうとする父親と、そんな父を迷惑に思いながらも、義務感で支えてきた息子との話が物語の主軸。そこに訳の分からない行動をなじる口うるさい母親と、地元では成功を収めている兄が絡んだ家族の物語に後半は膨らんでいく。ボケが入っていると分かっていても、息子として父親を支えないといけない義務感から、宝くじの当選金を受け取る旅に出る二人だが、途中立ち寄った父親の生まれ故郷で、お金を巡る様々な懐かしい出会いに巻き込まれる。そうした中で、息子は父親としてだけではなく、一人の男としての姿を垣間見るようになっていく。

邦画ではありますが、昨年観た吉田恵輔監督の「麦子さんと」では、若き日の亡き母親像に迫った娘の話でしたが、その関係を父親と息子に置き換えたのが、本作とも見えなくもありません。ただし、こちらの父親はボケが入ってながらも、まだ生きている。生きているからこそ、息子ができる男としての父親の立て方に、観ていて目頭が熱くなってきました。男にとっての父親は、母親と違って、どこか距離感があるものの、やはり肉親としてみる父親としての男の姿と、一人の男として見た姿って違ってくるんだと気づきました。人としての幸せが、お金ではない違った形の実現法として、ラストシーンに集約されます。全編グレーの映像にしてあるもの、人にはいろんな断面があるということの暗喩に思えてなりません。

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