3月 01

娚の一生

「娚(おとこ)の一生」を観ました。

評価:★★★☆

西炯子の同名コミックを、「さよなら歌舞伎町」の廣木隆一監督が映画化した作品。娚とは、何とも読みにくい漢字ですが、これ一字で”おとこ”と読むらしい(もともと常用漢字ではないので分からないのも無理ないですが、、)です。一部地方では、これで”めおと”とも読むらしく、夫婦での男と読めなくもありません。この映画に出てくる、つぐみと海江田教授は婚姻関係ではないので、夫婦と恋人の狭間という難しい関係を描いているとも読めなくありません。

「さよなら歌舞伎町」でもそうでしたが、本作も非常に空気感のいい作品です。(物語の設定上は、、)30代そこそこの女性と、50代の見ず知らずの大学教授が、ひとつ屋根の下の変な同居生活から始まるなど、恋愛というよりは、何かしらエロティックな関係が前面に出そうですが、廣木監督の手にかかると、それはそれでありえそうな設定にストンと落ちるのです。いくらありえそうになさそうな設定でも、ベースにあるのは男女の関係。本作で描かれるのは、それも恋愛関係というよりは、互いが互いを必要としてしまう関係に発展するという意味で、恋人以上夫婦未満という同志愛的な要素を多分に含んでいるように思います。映画の象徴として描かれる、足の指を海江田教授が舐めるシーンは、全体を通して、そのシークエンスだけがエロティックになっているので、ここで互いの愛情とは別に、肉体的なつながりというのをすごく意識せざるを得ない。これは実に上手い話の演出方法だと思います。

主演の榮倉奈々は、最近見ていたテレビシリーズ「Nのために」で、若手女優から一歩皮がむけて、本格的な女優の道を歩み始めた感があります。その意味でも本作で主演を堂々と張れたのは、役者としても重要なターニングポイントにもなった作品といえるでしょう。それに華を添える海江田教授役の豊川悦治も見事。この人は何かしら人間離れしたというか、人間という動物っぽさを感じさせない人なので、この飄々とした演技が海江田教授の味わいにすごく合っていると思います。ただ、この二人に絡んでくるキャラクターに、安藤サクラ、向井理というビッグネームを配置したのはいささかどうかと思います。この両名ともちょい役でしか出てこないのですが、あまりに俳優としてのキャラが立ちすぎて、そこの出演シーンだけ主演の二人が序盤から積み上げてきたいい雰囲気を薄めてしまうのです。全体的にオススメできる作品ではあるのですが、あと一歩の詰めが甘くなった作品のようにも感じました。

次回レビュー予定は、「味園ユニバース」です。

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