3月 02

味園ユニバース

「味園ユニバース」を観ました。

評価:★★★★★

「はじまりのうた」を観た直後ということもあり、改めて”歌(うた)”のもつ力強さというのを感じる作品でした。「はじまりのうた」でも少し触れましたが、歌(うた)なり、音楽というものは、すごく人の根幹にかかわる部分だなと思います。小さい頃に聞いた歌、10代の頃に聞いた(演奏した)歌、20代の頃に聞いた(演奏した)歌、、FMで偶然にその曲を聴くことがあったり、何かお店に入って、BGMとして旋律が一部流れてくるだけで、脳内は一気にその頃にタイムスリップしてしまい、そのときに感じていたこと、考えてきたことまで一気に甦ってくる。いろいろな音がある中で、音が集まってメロディになるだけで、脳内にそうしたマジックを起こしてくれる不思議なものに変化してしまうなんて、歌(うた)こそが人が発明した最善の発明ではないかと僕は思います。

本作「味園ユニバース」は、そうした歌(うた)の持つ力を物語に最大限注入した傑作になっています。主人公となるのは、記憶をなくした男。自分は何者かということは分からないまでも、ふと立ち寄った公園で聞いた旋律で、バンド演奏に乱入し、ソウルフルな歌を披露した。それを聞いたバンドのマネージャー・カスミは、嫌々ながら、彼にポチ男と名付け、奇妙な同居生活を始める。彼の身元を解明していくとともに、彼が披露する音楽的な才能に惹かれていき、バンドの一員に巻き込んで、念願であったワンマンライブを実現しようとする。しかし、ポチ男は突然、自分は何者かということに気づき始めていく、、

映画としてはよくある記憶喪失もので、最終的に自分は何者かということが分かった時点で、主人公がどう行動していくかが見ものになります。本作は物語の筋だけおってしまうと、そうしたありきたりな展開に沿っていくのですが、記憶を呼び起こす鍵(キー)としての歌(うた)が非常によい形で物語に絡まってくるのです。だから、物語としては意外な発想点もなく、腰砕けになりそうな弱い部分を、パワフルな歌の力が補って余りある作品になっているのです。主人公のポチ男に関ジャニ8のメンバーで、ソロ活動も始めた渋谷すばるというミュージシャンを据えたのも大正解。関ジャニとしての音楽ではなく、線は細いながら、すごく透き通り力強く歌える彼の歌声が、物語の生み出す雰囲気と絶妙にマッチしているのです。

映画の題名になっている”味園ユニバース”は、大阪のなんば千日前に存在するスナック、キャバレーなどが入る雑居ビル”味園ビル”に由来する。デビュー前の和田アキ子などもクラブ歌手として歌っていた老舗だが、ここで演奏する赤犬というカスミのバンドもいいし、作品全編に漂う大阪の下町情緒も個人的にはすごく好きです。特に、ポチ男が赤犬のバンドの中で音楽を生み出していくシーンは個人的に好き。自分には音楽の才能がないので、こうやって音を1つ1つ作っていく過程を見るだけで痺れるというか、憧れを感じてしまいます。

監督は、「リンダ リンダ リンダ」でも音楽青春劇を作った山下敦弘監督。山下監督は「もらとりあむタマ子」でもそうでしたが、下品で不器用だけど、熱く、泥臭く生きる(もしくは生きようとしてる)人たちを撮るのが本当に上手いなと思います。この映画は音楽を楽しむためにも、是非映画館での鑑賞をオススメします。

次回レビュー予定は、「きっと星のせいじゃない」です。

preload preload preload