4月 09

幕が上がる

「幕が上がる」を観ました。

評価:★★★★★

劇作家として知られる平田オリザが脚本を務め、「踊る大捜査線 THE MOVIE」の本広克行監督が映画化した青春劇。ちょうど同時期に「くちびるに歌を」「ソロモンの偽証」という同じ青春劇(後者は毛色がだいぶ違うけど笑)が公開されていますが、お話も、中身自体も、本作も演劇部の活動を通した青春劇であって、他の作品と大きく変わることはありません。が、単純な青春劇でありながら、映画作品としてはすごく面白いアプローチをしていて、観ていても映画ファンならニヤニヤと楽しめる爽快作でした。公開劇場が多少少な目でスタートした本作ですが、口コミの人気も手伝い、少し拡大公開されているので、機会があったら是非観てほしいと思います。

先に上げた同時期の青春劇作品と違い、本作にまずある特徴としては、人気アイドルグループ”ももいろクローバーZ(通称ももクロ)”のメンバーが主要な役どころを演じているということ。佐々木彩夏演じる明美ちゃんだけが唯一後輩役という設定だが、ほぼ同学年で、それぞれのキャラクターが個々に悩みをもって、演劇に取り組んでいる。不思議なのが、映画は映画と分かっているが、ももクロのそれぞれのアイドルとしての役割と、映画の中の各キャラクターのもつ悩みが絶妙なほどオーバーラップして感じられるのだ。それぞれが持つ悩みを、メンバーが支え合いながら、終盤の1つのゴールに向かって集約されている。それは普通の十代の女の子でしかなかった彼女らが、ももクロとして集結し、アイドルグループとして成功していく様を見ているようにも思えてくる。こうしたアイドル映画としての一面もお話の中で上手く昇華されていくので、エンドクレジットがももクロ一色になっても何の違和感も感じなくなってくるのです。

それに本作ではももクロの他に、黒木華演じる吉岡先生も裏主役のような重要なキャラクターになっている。ももクロのオーバーラップ現象と同じく、吉岡先生の舞台に打ち込む姿も、黒木華という今伸び盛りの女優の生き方というものにすごくオーバーラップしてくるのです。お話は全然違うのに、ももクロ+黒木華の映画といっても過言ではない。そんな不思議なつくりの作風になっているのです。

どうして、こういうのが成功しているかというと、劇中劇をうまく使っているからじゃないかと僕は思うんですよね。劇中劇とは劇の中の劇であって、本作では演劇部のお話なので、自動的に映画という枠組みの中に彼女らが演じる劇が入ってくる。劇中劇の場合は、その取り上げられる劇のお話が、映画の本筋に関わってくるという体裁はよくあるのですが、本作では映画作品としてのお話(演劇部としてのお話)と、劇中劇(演劇部が演じる劇作品)との間に、(表現が難しいんですけど)もう1つ物語空間があるんですよね。それが上記している、アイドルとしてのももクロの成長劇だと僕は感じるのです。だから、映画としてはスクリーンに投影される二次元作品なんですけど、物語としては三次元にも、四次元にも感じる奥行きがついているのです。だから、その中で動かすキャラクターは変幻自在な色合いを見せるのです。お話としてはいろんな人の成長劇が盛り込まれてくるんだけど、全然こんがらがった形にならない。こんな作品に出会ったのは初めてです。

本作の本広監督は、ずっとエンターテイメント色が強い作品を撮ってきた人というイメージでしたが、思えば「踊る大捜査線 THE MOVIE」でも過去の名サスペンスをうまくオマージュした傑作でした。そんな監督の映画に対する愛情が、本作ではすごく爆発しているように感じます。今後の本広作品にも目が離せなくなってきました。

次回レビュー予定は、「暗殺教室」です。

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