8月 17

チャッピー

「チャッピー」を観ました。

評価:★★★★★

「第9地区」、「エリジウム」のニール・ブロムカイプ監督が描く近未来ロボット映画。昨今何かと人工知能やロボット開発に注目が集まっていますが、本作の舞台は2016年(なんと来年)。ブロムカイプ監督お馴染みの南アフリカで、人型のロボットが警察用・軍事用として活躍している社会(んー、設定が何かに似ているけど、、)。人間たちをサポートするように登場してきたロボットたちだが、密かに人工知能搭載型のロボットも研究されていた。開発者のディオンがひょんなことから、壊れかけた廃棄用ロボットにその人工知能を埋め込む。最初は、子どものような動作を示していたロボット”チャッピー”は、次第に様々なことを学習し始めていくのだった。。

今の研究レベルというのは進んでいて、人工知能の研究に関しても、脳のほとんどの部位の活動というのが機械的なモデルに置き換えることが可能になっています。しかし、大脳皮質、小脳、海馬など、脳の各部位での動作は分かってきていても、それらを統合させて、何かしら知的な処理が行われるにはあと少し時間がかかる(といっても、十年くらいといわれていますが)のが現状。その間にコンピュータ自体も劇的に進化していて、従来型の知識蓄積型の人工知能(脳を模倣するタイプより、一世代前の形ですが)では、私たちの身近なところで生活を支えるようになってきています。この映画の設定が2016年と銘打たれているのは夢物語ではなく、ほんの少し先には必ず起きるような現実が描かれているといってもいいのです。

映画自体は、考える頭脳を手に入れたロボット”チャッピー”が、何の運命か、ギャングに囚われの身となり、その中で経験する様々な事柄から進化していく様が描かれます。人工知能というのは知識を得るまではシンプルな動きをすることが分かりますが、それが人の幼児期のような幼い動作をするとは必ずしも思わないので、本作のチャッピーの初期段階の描かれ方というのは、少し見方が偏っているかなとも思います。幼児のように振る舞うというよりは、最初はでくの棒みたいな形で、徐々に覚えながら、学習をしていくというところが技術屋目線からは本質かと思います。でも、こうした幼児のようなロボットが、身に降りかかる怖さを覚えながら、徐々に自律的に動いていく様は逆に怖い。本当に人工知能ロボットが、感情の赴くままに行動していくなれの果てというのは、「ターミネーター」に描かれるような終末感しかないように思えてきます。

この作品のすごいところは、単にロボットの暴走というところに留まらず、こうした感情というものの暴走や、ラストでの驚きの設定など、私たちの肉体と自我という哲学的なところまで突っ走っていくことです。最初は怖い怖いというばかりで、ちょっとウザいチャッピーですが、彼の学びは、本当に人を凌駕するところまで到達してしまう。そして文字通り、機械を操作する側であるはずの人間さえも、彼らの世界に取り込まれてしまう。こうして生きる私たち、人というのは、この世界ではどういう存在であり続けるのだろうという、凄いパンクSFの極みみたいなところまで魅せられてしまうのです。今までのブロムカイプ作品同様の色になってしまうのはいささか残念なところではありますが、本作は「第9地区」以上に突っ走っていく傑作だと思います。

次回レビュー予定は、「彼は秘密の女ともだち」です。

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