12月 24

黄金のアデーレ

「黄金のアデーレ 名画の帰還」を観ました。

評価:★★★★

今年は秋以降に一風変わった戦争映画が公開になることが多いですが、これもその一本。先日、第二次世界大戦下にナチスに奪われた美術品奪還を目指す秀作「ミケランジェロ・プロジェクト」の感想文を書きましたが、本作も時代はそれより少し経った現代ですが、同様にナチスに奪われた美術品を取り戻す過程を描いた作品になっています。本作の対象になっているのは、クリムトの名画”黄金のアデーレ”。無論、絵自体は有名な作品なので知っていましたが、この名画にこうした隠された歴史があったとは知りませんでした。アデーレを所蔵したいたオーストリア政府を相手にした法廷もの(リーガルドラマ)でもあり、名画略奪の背景を描くサスペンスでもあり、なんといっても一人の女性が戦争で失ったものを描く戦後の戦争映画にもなっているのです。

僕も感想文で何回か書いたと思うのですが、戦争映画というのは戦闘が行われる最前線を描くものだけではなく、銃後(非戦闘地)を描いたり、本作のように戦後何年も立ってから起こる事件を巡って描いたり(先日の「顔のないヒトラーたち」など)するほうが、その戦争が起こした悲劇をより強調できるのかなと思うことがあります。本作に登場する”黄金のアデーレ”描かれたのは、第二次世界大戦前の1907年。物語は静かにそこからスタートします。そこからナチスがオーストリアを併合するのが1938年。アデーレ自身は1925年に亡くなっているのですが、そのアデーレに可愛がられた姪のマリアが紡ぎだすアデーレへの想い、そして戦争によって引き裂かれた家族への想いが、名画奪還を目指す現代法廷ドラマの中に綴られていきます。これは単純な1つの美術作品に対する物語ではなく、その美術作品が生まれた背景に生きた人たちに向けたドラマになっているのです。

現代を生きる姪マリアを、「クイーン」でアカデミー賞俳優となったヘレン・ミレンが軽快に、そして楽しく演じていることが伝わってきて、観ているこちらも非常に気持ちがいいです。彼女を支える弁護士ランディを演じるライアン・レイノルズも、演技を拙そうにしているところが、弁護士としてもヒヨッコのところから徐々に成長していくところをうまく表現されていると思います。現代劇となる法廷ドラマが中心となるものの、過去をタイミングよくフラッシュバックして物語の背景を浮き彫りに演出しているところも見事。作品のテンポもよいので、題材が重たい割にサクサクと見れるところも好印象です。ラストが「タイタニック」っぽくなる演出が少しイマイチですが、作品のまとまりもよいので、この冬で見逃せない作品の1つになっていると思います。

次回レビュー予定は、「007 スペクター」です。

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