9月 08

しあわせへのまわり道

「しあわせへのまわり道」を観ました。

評価:★★☆

可愛い娘が独立し、自分も中年期から壮年期に差し掛かってきた一人の女性が、夫の浮気を知り、自暴自棄になりながらも再生を図っていくというお話。話のミソになっているのは、予告編にもあるようにベン・キングズレー演じるインド人教習官のもと、遠くで農業研修を受けている最愛の娘に会いに行くために、女性が自動車教習を受けるというところ。ニューヨークの街中で、思うように自動車をコントロールできない様が、人生が思うようにいかない様とオーバーラップしていくのです。監督は、「死ぬまでにしたい10のこと」など静かな作風で知られるイザベル・コルシェがメガホンを取っています。

この映画、演出として素敵だなと思ったのは、中年女性ウェンディを演じるパトリシア・クラークソンと、教習官ダルワーンを演じるベン・キングズレーの恋物語という安直な方向に行かないこと。ウェンディには先ほどのような家庭のゴタゴタがあったように、ダルワーンのほうも長年1人(正確には、親戚や仲間とシェアハウス状態で暮らしていますが)で住んできたのに、家族も勧めもあって、お見合い結婚してしまったというところから物語は転がっていきます。ウェンディは家族と離れ、仕事だけが自分を主張する場でしかなくなっていくし、ダルワーンも気楽な一人ものという状態から、結婚した妻への愛情や共に生きることの幸せをどのように掴めばいいのか模索する。互いが迷いあっている二人が、自動車教習という限られた空間と時間を共にすることで、互いが自分を律してくれる大切な存在へと変化していきます。そこは単純に惹かれあうというよりは、お互いが進む道を示してくれる標識のような存在へと変わっていく。この物語の進め方が実に美しいのです。

イザベル・コルシェ監督は、「死ぬまでにしたいこと~」でもそうでしたが、人生のいろいろな選択に答えがないように、映像作品の1シーン1シーンにもシナリオに沿った物語(のオチ)があるというより、その流れ自体に意味があるという少し深遠な目線に立って物語を構築していると思います。考えてみれば、私たちの人生の一瞬一瞬も、その場の空気や相手の行動によって変化するもので、その先にどういうことがあるから(期待するから)言動を起こしていくということは稀なような気がします。ただ、そうやって頭では分かっているものの、あまり物語の先を考えないキャラクターの肉付け方法はあっさりというか、物足りなくも感じたりします。だからこそ、クラークソンとキングズレーという二大名優が演じることで、作品として引き締まった感が出ると言えば出ているのですが、、、

次回レビュー予定は、「あん」です。

9月 07

イニシエーション・ラブ

「イニシエーション・ラブ」を観ました。

評価:★★★

映画公開当初から、ラスト5分で全てが覆る、、という宣伝文句で煽っていたラブ・トリックムービー。原作は、同じくこのラストネタで130万部を売り上げた乾くるみの同名小説。「SPEC」の堤幸彦監督がメガホンを取った作品になっています。この手の、「ラストですべてが、、、」という宣伝文句を謳う作品というのは、そうでなく何も宣伝しない系(「ユージュアル・サスペクツ」や「シックス・センス」など)に比べて、観る側が身構えてしまう分だけうまくトリックが決まらないことが多いのですが、この作品は結構頑張っていると思います。それも主演の松田翔太、そして前田敦子のカメレオンぶりに尽きるといったところでしょうか。それでも、原作を読んでいない僕は、観てすぐ分かっちゃいましたけどね。

あまり、このラストのトリックについて書くと面白みが減ってしまう(というか、作品的にゼロになる??)ので、ネタバレは避けますが、とはいいつつも、この映画はこのラストがないことにはそもそも成立しないように思います。だから、このラストがあるという設定で考えると、このラストに持っていくまでに結構緻密にプロットを重ねていると思います。大きくは、静岡で出会った奥手な大学生と歯科助手の不器用な恋を描いた第一幕と、遠距離恋愛となって関係が薄れていく第二幕があって、作品的に、この二幕構成をスムーズにつなげることが肝なんですが、一幕単位での描かれ方も緻密だからこそ、全てのネタがばれたときにあっさり感というか、トリックによって物語が薄っぺらくなることがない。得てして、この手の映画はトリックばかりにこだわりすぎて、それ以外のことがおざなりになってしまうことが多いのですが、本作に関しては、ちゃんと各エピソードがしっかり組み上がるからこそ、トリックがちゃんと成立しているという形がしっかりしているように思います。

ネタ的には、観客の誤認識を誘う典型的なミスディレクションな形になっています。こうした形の作品は、その観客の誤認識を分からないように如何に包み隠してしまえるかがキーポイントですが、本作は映像的にはよく見れば違いが分かるのに、観客がミスリードしてしまう(ん、ネタバレですかね笑)ところが、とても映像映えというか、映画向きな作品になっているように思います。ネタが最初から分かってしまった人も、そうでない人も、ラストがどう転がるのか見逃さずにはいられないドキドキ感を最後まで引っ張ってくれるところも、エンタテイメント向けというところではよくできた作品になっていると思います。

次回レビュー予定は、「しあわせへのまわり道」です。

9月 02

テッド2

「テッド2」を観ました。

評価:★★★☆

字幕版にて。

見た目は可愛いが、中身は中年のオッサンというテディ・ベア、テッドが帰ってきた。前作は話題にはなったけど、それほどヒットした覚えはない感じがしましたが、巷での”テッド”というキャラクターがどうも人気先行しているような感があります。毒を吐くといっても、見た目は可愛いテディ・ベア。ゲーセンのUFOキャッチャーや、関連キャラクター商品も、子どもや若い人たちに人気がありますが、映画作品は今回もあくまで「R-15」指定。僕が観ようと思っていた回にも小さい子どもを連れてチケットを買おうとしたお母さんがいましたが、日本語吹替え版でも、15歳未満は入場ができませんのでご注意を(そのお母さんも、子ども連れで入場券は発行されませんでした)。

前作はテッドが、マーク・ウォルバーグ演じるジョンとの出会いから、その関係性を描くところでちょっともたついた感があって、全体的にリズム感がイマイチな作品でした。しかし、今作はそういう前置きは不要なので、序盤から一気に飛ばしている感があります。作品のテンポもとっても軽妙だし、台詞の1つ1つの掛け合いも爆笑もの。ただし、注意していただきたいのは、前作から面白さは2倍になりましたが、卑猥度はそれ以上の4倍増しくらいになっているので、「R-15」指定も納得の出来栄えになっています(笑。再度、ご注意しますが、いくらテッドが可愛いといっても、ペニス型の吸入器やら、お尻丸出し描写やら、果てまた精子のひっかけあいなど、超卑猥描写と台詞のオンパレードに耐えられる方の鑑賞をオススメします。。この出来だと、デートムービーにもふさわしくないかも、、です(笑)。

それでも、そうしたことを十二分に許容できるのであれば、本作は前作以上にパワフルな形になっていると思います。テッドは、前作のスーパーで出会ったタミ・リンとの仲が続いていて、遂に彼女と結婚するし、”フラッシュ・ゴードン”本人こと、サム・ジョーンズは本作でも爆走モードで元気。ガイはまた新しい男をつくって、本作のラストで大暴れなど、楽しいシーンが満載です。前作の絡みでいうと、ジョンの恋人だったローリーが、ジョンとは破局したという設定で出てこないのが残念ですが、その代わりに弁護士で出てくるサマンサもぶっ飛んでいてキュート。モーガン・フリーマンなどクレジットされている名優だけでなく、カメオ出演で大物スターがザクザクと出てくるのも驚くところ。ただ、カメオ出演している俳優の出演作を見ないと分からないネタ(スーパーのレジに登場するあの人とか、コミケで出てくるあの人とか、、)も多いので、この辺りは映画マニアへのご推奨といったところでしょうか。。(笑)

さて、テッド2が出てきたので、これは3もあるでしょう。次回も超爆走(&超爆笑)モードで頑張って欲しいところです。

次回レビュー予定は、「イニシエーション・ラブ」です。

9月 01

鏡の中の笑顔たち

「鏡の中の笑顔たち」を観ました。

評価:★★★★☆

先日「種まく旅人 くにうみの郷」の映画感想文で、農業映画というのは割と鉄板映画(どんな作品でも一定の面白さがある)ということを書きましたが、理容室や美容室をテーマにした、”バーバー映画”も意外にハズレは少ないです。近作では池脇千鶴主演の「はさみ hasami」も面白かったし、海外に目を向けても、「胡同の理髪師」、「バーバー」、「髪結いの亭主」など、”バーバー映画”は面白い作品が多いです。理容や美容というのは、髪という人間の見た目を最も大きく左右するものを扱いますし、髪型1つで気分転換になるように、人生を大きく左右もしてくるので、とても映画向きな素材なのかもしれません。それにメイクもそうですが、髪を整える理容というのは実際に人と人とが触れ合いながら、形づくっていくものなので、そこで起こる物語というのも、とても人間味が溢れてくる作品が多いようにも感じます。

本作は、そうした美容業界で一躍カリスマにものぼりつめた一人の青年理容師・井上が、逆にそのカリスマというポジションだからこそ起こしてしまった人気モデルとのいざこざで、業界トップから陥落し、地方の名もない美容店での訪問美容から再生を図っていくというお話。こうあらすじを一言で書いてしまえるくらい、とってもシンプルで、予告編以上に驚きは正直ない作品です。かといって、つまらないかというと実は全然そうでもない。むしろ、こうしたすごく真っ直ぐな作り方が観ていて、すごく気持ちいい作品でした。都会の中で、”美”を追求し、それによって彩られ、ファッション界のトップを行くような女性たち。まるで義務感のように美を追求する彼女らに対し、井上が訪問美容で出会う年配の女性たちは、誰に見せるとかではなく、自分の生活をあくまで自分らしく”美”をもって生きたいと思っている。たとえ、ボケて頭が回らなくても、その美しさを見せる身寄りがいなくても、彼女たちが美しくなることで、毎日の生活に張りが出る。自分の美容術にこだわり続けてきた井上も、そうした違った価値観に、徐々に本当の美容師としての生き方に目覚めていくのです。

僕は井上を見ていて、分野は違えども、若い頃の自分の考え方によく似ているなと思いました。学生のときも、社会人になった頃もそうでしたが、とかく自分の腕や能力というところにこだわりすぎて、その学んだことや経験したことを周りに全然還元しようとはしなかった。それはともすれば、自分さえよければいいという独善的な考えにもたどり着いてしまいます。僕は能力というのは全然高くないので何ですが、主人公・井上のように素晴らしい腕前(技術)があったとしても、それを例えば仕事の中でどう活かすかというのは全く別問題。いいエンジンをもっていても、それだけでは車は動かないように、お客さんがいて、同僚や仲間がいて、その中で初めて自分というものが輝いていく。それは家族でも、会社でも、社会の中でも同じことなんだなということを、最近になってよく感じます。札幌の美しい風景の中、そうした井上の純なまでの成長が、見ていて非常に清く素晴らしく映った作品でした。

次回レビュー予定は、「テッド2」です。

8月 26

ジュラシック・ワールド

「ジュラシック・ワールド」を観ました。

評価:★★★★

IMAX3Dの字幕版に、通常2D字幕版も鑑賞しました。

太古の昔に絶滅した恐竜たちを復活させる、”ジュラシック”シリーズの第4弾。シリーズ1作目が公開されたのが1993年と、今から約20年前。。えーっ、もう20年かよと思うくらい、この”ジュラシック”シリーズは普遍なんだなと思います(ユニバーサル・スタジオなどのテーマパークで人気ライドとして続いていることもあるのでしょうが)。ちょうど1作目が公開されたときは中学生。劇場で観た覚えは正直ないのですが、当時はあの恐竜たちがCGで蘇る、、というところが大きくフューチャーされていたことを覚えています。本作は、その1作目を系譜する形で描かれています。なぜって、1作目以来の恐竜が主体のテーマパーク物語だから。考えれば、2作目、3作目は”ジュラシックパーク”という廃墟化した遺産を巡る物語だったから。時の経過は明確に描かれていませんが、人は20年も経つと前の経験を忘れちゃうものなんでしょうかね(笑。パークを域を超えた、巨大なテーマパーク:ジュラシック・ワールドを巡るお話となります。2作目、3作目が恐竜たちを生み出す島、サイトBに移った舞台だったのに対し、本作は1作目と同じ、パークが存在するヌブラル島になっているのも、1作目の系譜を感じる部分でもあります(1作目から続くキャスト(キャラクター)が出なくなったのは寂しいですが、、)。

こうした1作目の系譜が強い作品ではありますが、本作は前シリーズまでの3作品(のどれかでも)を好きな人だったら、間違えなく気に入る作品になっていると思います。遺伝子操作で恐竜という古代の生物を復活させていいのかという科学倫理の問いから始まり、遺伝子操作の暴走で始まった最強の恐竜(というか、遺伝子操作の新種なので恐竜と呼べるか微妙ですが)インドミナス・レックスの存在、パークという形で自然を制御しようと試みる人間の浅はかな行い、そして、単純にアクション映画としての恐竜たちのダイナミックな動きも含め、何から何まで、旧来の3作品をとてもリスペクトした形でお話が構成されているのが見事です。僕はマイケル・クライトンの1990年に発表された原作小説がとっても好きなので、彼が脚本製作に協力し、小説を基調としている1作目、2作目のクオリティの高さが今でも好きなのですが、クライトンが今も生きていたら、この4作目も彼の科学的な精神というのが生かされていて喜んではないだろうかなと思います。

エンタテイメントとしても、恐竜たちの大暴走がすごく迫力があり、スクリーン映えする作品だと思います。ただ、若干気になるのは、この迫力あるアクションシーンと同じく、物語の設定も、構成も、演出も、すべて大味に作られていることでしょうか。恐竜たちがあんだけ人を襲っているのに、観客はやられはするものの、パニックを起こさず冷静に逃げているし、対するパークのスタッフも、物語の主軸にいる人は勇気をもって立ち向かうものの、その他の人はやや物見遊山的なノンビリ対応。精巧に作り上げているというよりは、面白さの主軸をとことん太くして、あと細かい要素はさっぱり無視しているという形はかえって潔いかなと思います。

4DXは体験していませんが、映画好きならIMAX3Dがかなりオススメ。ラストは大迫力で、いい意味でちびりそうになりますよ(笑)

次回レビュー予定は、「鏡の中の笑顔たち」です。

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