10月 27

バルフィ

「バルフィ!人生に唄えば」を観ました。

評価:★★★☆

「マダム・イン・ニューヨーク」「めぐり逢わせのお弁当」、今年に入って観たインド映画は一昔前とは違っていることはレビューでも何回も書いていると思います。両作品とも、旧来のインド映画の特徴であった部分がいい意味でそげ落とされているのです。長く意味不明なミュージカルシーンを削除。舞台を現代劇調にし、映画といえども、ありえない設定は極力持ち込まないようにし、現実の少し先にあるようなファンタジー(地に足ついたお話)にうまく仕上げているのです。それこそ、おとぎ話のようなあり得ないお話も悪くはないのですが、どうもそこに出てくる強烈なキャラクターに閉口してしまうというのが、過去のインド映画にはよくありましたが、最近はその過剰演出も控えめになっているので好印象。昨年から続いているインド映画の再ブームは、こうした作風の変更に依るところも大きく、これは一昔前の韓国映画同様、国内だけでなく、全世界に向けたマーケティングをしてきたのかなとも思えます。

そんなインド映画の急激な変化の中で、本作はどこか旧来のインド映画風に仕上げてこようとする意図も感じられます。上映時間も多少長め(昔のインド映画は軒並み、どの作品も3時間越えだった、、)だし、お話も少しファンタジーというよりは、だいぶメルヘンチックに仕上げている。出てくるキャラクターも、例えば、バルフィを生涯追いかける署長さんなど濃いメンバーが出てくる。しかし、こうした濃くなるような素材を揃えながらも、演出の仕方がすごく軽妙になっているので、とっても観易い作品に仕上がっています。過剰な演出をすることもなく、お話もぶっ飛びそうでぶっ飛ばない。それぞれのキャラクターの行動にもちゃんとしたオチを用意していて、映画のフレームの中を大きく逸脱しようとしない。こうした繊細な感覚が、映画を洗練したものにしていると思います。

お話としては、耳が聞こえない主人公バルフィと二人の女性が絡む三角関係を描いています。僕は、予告編で予想したお話の流れとは全く違ったので、すごくこの物語に心をキュンとさせられました。何がいいって書くとネタバレになりそうなので、これは実際観てみて感じて欲しいと思います。

作品の作り方が、全体的にイタリア映画っぽく感じられたのも特筆すべきところでしょう。ダージリンなど、インドの特徴ある土っぽい風景美と、そこに息づく人々の鼓動というか、魂みたいなものが、映像の中から湧き上がってくるような気がします。バルフィの女性に対する想いというのも、チャップリンの映画を観ているようなシーンがオーバーラップしてきます。有名な映画のシーンをいろいろオマージュしているようなので、映画通の方は、それだけでも楽しめるような気がします。

次回レビュー予定は、「ふしぎな岬の物語」です。

preload preload preload