10月 05

攻殻機動隊 新劇場版

「攻殻機動隊 新劇場版」を観ました。

評価:★☆

1989年に士郎正宗によってつくられたSF漫画「攻殻機動隊」。ちょうど原作が誕生して25周年となる昨年から、「攻殻機動隊ARISE」として、主人公・草薙素子の過去を描くシリーズが劇場公開されており、僕もシリーズ全4作を映画館で鑑賞しています。人の意識が人によってつくられた”電脳”という物質脳に移植され、人体は義体化という人造人間が多くなった未来。そこに生きる人々が、電脳空間と実際の空間との間で繰り広げる事件や戦闘を取り上げる本作ですが、この「攻殻機動隊ARISE」ではそうした電脳化された主人公・草薙と、バトー、イシカワ、トグサなどの主要キャラクターと出会いながら、電脳社会を取り締まる”公安9課”を立ち上げていくまでを描いています。本劇場版は、「ARISE」の名称は打たれていませんが、前作「攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stand Alone」で取り残した問題を解決し、正式に”公安9課”が立ち上がっていくまでの終章を描いた作品にもなっています。

この「ARISE」シリーズは1作目はシリーズイントロとしては及第点の評価をしていましたが、2作目は軍事機密の名の下で散っていく男たち、3作目は素子と義体技師のラブストーリーと、物語の核がしっかりしていて高評価できる作品になっていました。しかし、4作目の前作は、この作品の難しい設定(”Ghost”という電脳に彷徨う幻とか)を一気に盛り込んだ、かなり難解な作品になってしまいました。それが、この「新劇場版」にも流れ込んでしまっていて、せっかくの”公安9課”が血と汗と努力で結集していく様を描いているのに、物語に入っていけないという不条理な作品になってしまったと思います。それに物語の背後設定も、「ARISE」シリーズでたびたび出てきたいろんなキーワードを全て盛り込んでいるので、(ファンとしては嬉しいでしょうが)この映画から観た人は全く入っていけない。それこそ、「名探偵コナン」シリーズの冒頭プレイバック説明ではないですが、本作こそ、今までのシリーズの圧縮説明みたいな導入部がいると思います。

前作のショッピングモールでの暴走事件や、本作での総理暗殺事件など、作品として重要かつ悲劇的な事件が物語の中心に据えられています。ですが、いろんな出来事が事件の背景に潜んでいて、しかも各キャラクターの台詞の意味が咀嚼しずらいので、物語そのものが酷く分かり難くなっています。「ARISE」の最初の頃に比べて、絵づくりとか凄く綺麗になっているのに、物語は逆にどんどん理解できない方向に突き進んでしまったのが残念でなりません。時間があったら、もう一度、「ARISE」の最初から本作までしっかり見直したうえで、本作の面白さというものを評価したいと思います。

次回レビュー予定は、「岸辺の旅」です。

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